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違和感
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僕は奪い取った工具を
プラプラと揺らしながら
先輩に話しかけた
「僕を騙して逃げる人の話なんか
聞く耳はもっていませんが……何か?」
「はぁ?ま、まだ逃げてないし!
い、いや、とにかく!
一旦それ置こうか!な?」
「それ………?」
場を和ませようと
必死な周防先輩に
『それ』と指差されたものを
頭に叩きつける妄想をした
こんなときに
何してんだよ、とか思われるかもだけど
妄想は
僕の精神安定剤みたいなもので
それのおかげで
少しだけ
………ほんの少しだけど
落ち着いた僕は
ここへ来て最初にしたことと
まったく同じことをした
室内の隅に向かって
思いきり工具を投げると
遠くで
部品が外れるような音といっしょに
床に打ち付けられ大破する金属音が響いた
「それって、どれのことですか?」
「…………………はは」
先輩は笑顔をひきつらせながら
もう降参と言うように右手を広げた
え?
ぜんぜん落ち着いてない?
いやいや、
妄想が現実にならなかっただけ
マシだと思うよ
話ができる環境を整えると
鎖を踏みつけたまま先輩の顔を覗く
「理由はなんですか」
またさっきと同じ質問をすると
先輩のひきつった笑顔が
一瞬で真顔になり
瞳孔が開いた目を伏せて
顔を反らしながら
苛立ちを含んだため息をついた
「………お前が嫌いだから」
「へー…嫌いな奴を
あんな風に抱くんですか」
「そう、俺セックスすんの好きだから」
理由としては
辻褄も合うし、疑うところもない
さっきまで
僕も嫌われているのかもしれないと
思っていたくらいだし
―――――けれど
僕の中の違和感は
いまだに消化不良を起こしたままだ
何かが
おかしい
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