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浮気者【side/椎名 春馬】
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「真柴和臣、俺の幼なじみ」
突然現れた、がたいのいい物静かな男を
恭先輩はニコニコしながら
僕に紹介した
『幼なじみ』
そのフレーズだけで、
二人の親密度がどれくらいのものなのか
すごく良くわかるのに
先輩はさらに彼の肩に腕を乗せ
耳元に顔を近づけて
僕に聞こえないように何かを話していた
―――はっきり言って
気分が悪い
さっきまで
毛並みを逆立てながら
僕に切れていたくせに
彼を見つけた途端
『あ、和臣!』なぁんて言いながら
尻尾を振ってお手お座り状態
僕には忠実ではない鈍感なバカ犬は
彼にはとても素直で大人しい
躾の行き届いた可愛らしい犬になっていた
………そりゃ、まだ『付き合おう』と
はっきり言われたわけじゃないから
僕は先輩の恋人でもなんでもない
『先輩』と『後輩』
『芸能人』と『一般人』のままだ
別に僕だって
あのまま付き合うことになったと
思ってるよ
普通の人なら
階段を2段飛ばしでかけ上がっても
問題ないことだけど
この人の場合は
一段一段、確認させなければ
あっという間に転げ落ちてしまう
だから、ちゃんと言葉にして
言って欲しかっただけなのに……
「あ――あれ?……違う違う!
喧嘩とかじゃなくて
たまたま手を伸ばしたら……」
突然ボリュームが大きくなった
恭先輩の声に
イラッとした
衝動的に
深く繋いでいた手の力を緩めて
先輩の手から引き抜く
一瞬だけ恭先輩はこちらを見たけど
繋ぎ直してはくれず
すぐに真柴先輩に向き直った
「………………」
手を追ってくれると期待していた自分が
すごく
惨めだった
―――――僕だって
恋愛経験があるわけじゃないから
これが正しいのかどうかもわからない
先輩が僕を想ってくれる気持ちが
僕が先輩を想う気持ちより
絶対的に少ない中で
いつか先輩が僕の前から
いなくなってしまうんじゃないかって
そんな不安な気持ちのまま
向き合ってるっていうのに
当の本人は僕がいないみたいに
幼なじみと暢気に会話を楽しんで……
「あはは、まったく……
昔から心配性なんだよ、和臣は」
一通り話が終わったのか
恭先輩が彼の肩に腕を乗せたまま
優しく微笑むと
真柴先輩も
そよ風のようにフワリと微笑み返した
………………………………
……………もうやだ
この無神経な浮気男にくっついている
浮かれ能天気な頭を
こんな弱気な僕のかわりに
誰か叩き割っていただけませんか…………
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