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記憶と理由
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「俺は、お妙さんのとこにいたはずじゃあ…?」
エンジンが切られる音で目が覚め
頭を横に振りながらそう呟くと
視界に
トシはげんなりした様子で
溜め息をつくのが目にいれると
ドアをあけたままにさっさと車から出ていった
意識が覚醒してくるとここが屯所であることに気がつく
頬や節々がジクジクと熱を持っている
感じを覚え
場所、場所を触ると痛みが走る
未だボーッと回らない頭でそんなことを考えていると運転席に乗っていた総悟が首だけ後ろに振り返り目線が合う
「近藤さん、さっさと下りてくだせぇ、俺ももう、寝たいんで
山崎、おめぇも降りろ」
隣の山崎も
総悟に促されるようにしていそいそと
パトカーを一緒に降りる
「じゃ、局長俺も寝ますんで」
山崎はそれだけ言うと
欠伸をしながら自室に戻っていった
胸ポケットから携帯を取りだし、時間を確認するともう、11時をとっくに過ぎていた
「俺も寝るか」
画面から目を離しポケットにしまいこみながら顔を上げると
淡い灯りが障子ごしに透けて見える
トシの奴こんな時間から、また仕事かと思いもしたが、何時ものことかと思い返すと
自室に足を向け、襖の前に立ったはいいが
どうにも、それを開けるきにはならず、直ぐそこの縁側に座り込み
空を見上げる、暗闇にうっすらと見える雲がゆっくり流れ、月を隠す
それをジット見つめる
「そういやぁ、アイツと一杯やったときも、こんなんだったかな」
「アイツってのは、誰のことだ?」
「おお、トシか、仕事は終わったのか」
「いいや、どうも今日はそういう気分になれねぇんでな、あんたこそまだ起きてたのか」
「なんだか、寝る気分じゃなくてよぉ、一緒にどうだ?」
口の端を軽く持ち上げなから
くいっとお猪口を持っているような仕草で親指と人差し指を動かす
「あんた、たんまりたまった大量の書類があるの忘れてる訳じゃあねぇだろうな」
「今日ぐらい、いいだろうよ
息抜きも大切だろ」
「その、台詞何度聞いたか知れねぇなあ」
酒を台所から拝借して
トシと杯を交わす
ごくりと酒が喉を伝う
気持ちの良い風が流れ、杯の水面を揺らす
「トシ」
「近藤さん」
しばしの沈黙が流れたあと
どちらともなく、声が上がる
トシに先に話すように言うと
軽く酒を口に含み、視線を此方に向けると、口を開いた
「副長、土方十四郎として聞く
局長あんた、何で坂田を副長にしようとした?あんたも、そこまで馬鹿じゃねぇ、混乱を招くのは分かってたはずだ」
「副長として、か」
副長として、それは土方十四郎としては興味はねぇが副長として局長に聞きてぇってことなのだろうか
真剣なトシの瞳を横目に拾い
俺の言葉に反応を示さないのを見れば
それを肯定したということで
ふと、考える
銀を何故、副長のポジションに置いたのか
直ぐには答えなかった
いや、答えられなかったといった方が正しい
俺も何故、アイツを副長にしようとしたのかは、よくわからなかったからだ
静かな時が流れ、風が吹く
アイツが来たときには、咲いていた桜もすっかり新緑にかわり
その葉が落ちるのを見送る
「分からねぇな」
「はぁ?!分からねぇってなんだそりゃ」
「分からねぇ分からねぇけど、一つ言えるのは気になったからだよ」
トシに問われ最初に浮かんできたのは、何でだ?と言うような疑問
次に浮かんだのはこの景色と重なるあの、寒空での夜
あの時の瞳がきっと忘れられなかったからだ
―白銀の世界にちらほらと雪が舞い落ちるそんな、冬の日
銀髪の男がごくりと喉を鳴らし
冷たい冷気をのせた風でくるくるの髪が揺れる
視線をそちらにやっていると
何?と言いたげな視線が此方に向く
今と変わらず、生気のない瞳をしていた、いや、今より
もっとかもしれない
そして、その瞳は悲哀を感じさせ
この男はてに届かない存在の様に感じた
あの時の景色から意識を戻し
トシの顔を見ると、驚いたような、何を馬鹿なと言いたげなそんな顔をしていた
「気になった。それが理由か」
「あぁ、そうだ。そんな理由(こと)しか浮かばねぇな」
「そうか。……で?近藤さん、あんたは」
トシの言葉の意味がわからずに
少し間があき、頭を捻るとトシと言葉が被ったことかと思い出す
「……ん?あぁ!そうそう銀の奴飯食ってるか?」
「はぁ?!んだそれ」
「いや、アイツ。ちゃんと飯食わねぇんだよ」
「んなこと俺は知らねぇよ
第一、餓鬼じゃねぇんだ飯くらい一人で食えんだろ」
「……だが、食べねぇんだよなアイツ」
呟きつつも杯の酒を一気に飲み干す
そして、この一言で会話もあやふやに終わらせながらも
もう一杯だけ、もう一杯だけといってるうちに一瓶あけてしまい
俺もトシもデロデロの泥酔状態に等しい状態だった
「だ、……!きょ、…っ」
耳元から、誰かの声が聞こえ
重い瞼を持ち上げると
この前入った新人隊士
少し、明るめの茶髪をした
笑顔を絶やさない印象の男だった
俺が目を覚ましたのに気がついたのか、一瞬目を見張り
口を開く
「局長、こんなところで寝てたら風邪引きますよ」
その言葉に身体をゆっくりと起こし
辺りを見回す
トシを見ると、片手で頭を覆いながら起き上がり
新人隊士に問いかける
「…今、何時だ」
「もう、深夜2時頃ですね」
「そうか」
「水城、この事は」
「あぁ、…誰にも言いませんよ」
あちら此方に視線をやり頭をぽりぽりかきながら
目の前の水城にいうと
それを察したのか苦笑いで答えた
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