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ピチチ、と小鳥が囀って清々しい朝を伝える。
ティーセットの乗ったワゴンを押し、目の前にある扉を開けると、この家の主人はすでに起きていて、難しい顔をしながら机の上の書類と闘っている様子だ。
この主人──レナード・ローウェルに仕える執事、西園寺悟(さいおんじさとる)は部屋に入ると、まず初めに一礼をする。
「おはようございます、レナード様」
「ああ、おはよう。サトル」
レナードは、目の前の山積みになっている書類に夢中のようだ。
軽い挨拶を済ませて、悟はレナードの元へティーセットを持っていく。
「朝食の準備が整いましたので、知らせに参りました」
「ああ、そうか。こっちに運んでくれ」
「かしこまりました」
レナードの部屋は、他の応接室などとは違って、いたってシンプルだ。絵画や骨董品などで着飾っていない。ただあるのは家具を除き、地球儀と数々の本である。本にいたっては様々なジャンルを揃えてあり、小さな図書館になりそうなぐらいだ。貿易商ということで、知識を取り得ることによって、それが得た分あらゆる方面で活躍するらしい。
仕事をする主人は、悟にとって誇らしいものだ。素直にかっこよく見えるし、時々、地球儀を回しながらどこの産地の何が凄いと輝く瞳で教えてくれる茶目っ気は微笑ましい。
「本日のアーリーモーニングティーは、宇治のほうより新しい玉露が入りましたので、ご用意させていただきました」
「ふむ、それは楽しみだな」
特に本格的な日本茶を飲んだ時、あまりにも感動したようで、今でも朝一番のティータイムは紅茶ではなく日本茶にするほどお気に入りぶり。
お湯を急須に注ぎ、一旦茶碗へ。そして、茶葉を急須へ、と悟が手を動かしていると、不意に視線を感じた。視線を上げると、案の定レナードと目がばっちり合ってしまって。
「あの……」
「なんだ?」
「その様にまじまじと見られますと、気になります」
「それはいい傾向だな」
ニヤニヤしているレナードは何だか嬉しそうだった。しかし、悟は意味がわからない上に対応に困ったので、話の方向を強引に逸らす。
「それより、そのご様子ですと昨晩はお休みになっておりませんね」
「ああ、今週は忙しくなるな。明日より家を空けることが多くなる」
「承知いたしました。失礼いたします」
レナードの机に茶托を置き、さらにその上にお茶の入った湯呑み茶碗を置く。
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