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悟が速足で向かった先は自室であった。
扉を閉め、鍵をかけたところで、悟は崩れ落ちるように床へ座る。
「勘弁してくれよ……」
そう呟いて、両手で顔を覆った。冷たい風で冷やしたはずの頬がまだ熱い。心臓は腹が立つくらいドッドッと早鐘を打っていて。
早く処置をしないと。
悟はフラフラと立ち上がり、机の引き出しからパッケージに入った注射器を取り出した。毎月に一度打っているものだ。いつもより少し早いかもしれないが、レナードをあれだけ近くに感じて当たってしまったのだろう。
これは、発情抑制特効薬。その名の通り、Ωの発情期を抑制する薬だ。
実は、悟の本当の性はΩである。そう診断された時から、いくつかの薬を駆使してαだと偽り続けてきたのだ。実際、このことを知っているのは、この抑制剤を処方してくれる担当医のみ。問題なくこなしてきている。
ただひとつ厄介なことを除いて。
それこそがレナード・ローウェル。この家の主である。
レナードは実力のあるαだ。αの中でも上位の位置に相当する。Ωの悟だからこそわかることなのだが、フェロモンの強さが尋常ではない。今まで出会ってきたαより桁違いのものだった。それこそ、今のように薬で徹底していても惹かれてしまうほどに。
迂闊に気を緩めてしまえば、本能のままに欲情してしまいそうになる。そして、レナード自身も悟のフェロモンを感じ取ってバレてしまうだろう。
バレてしまったら、どうなる?
αに狙われて、誰かの番となる? 今の地位はなくなって、みんなからは違う目で見られる?
嫌な状況を考えれば、いくつも出てくるΩに嫌悪が募る。
悟は、それをかき消すように注射器から薬を投入した。長年接種してきたものだから薬が浸透していく感覚が感じられて、そのことに安堵する。これも一種の薬物中毒かもしれない。そう思えば、自分がどれだけ愚かなことかと笑いたくなる。
誤魔化しの香水をシュッと振ったところで、悟は考えを閉ざした。
颯爽と部屋を出て持ち場に戻っていると、どうやら悟を探している様子のアルバートと出くわした。
「あ! サトルさん、探しました!」
悟を見つけた瞬間、ぱあっと明るくなって小走りで向かってくる姿はまるで子犬ようで。
そこまでは微笑ましいことだが、アルバートにはレナードの朝食を運ぶように指示をした。そこに不備があったとか、レナードの機嫌を悪くしたとか、色々と不安要素が大いにある。
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