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レナードを送り出し玄関ホールへ戻ると、主人が出掛けたからか一息抜けた雰囲気となっていた。交代で休憩する者もいれば、洗濯や掃除など持ち場へ戻る者もいる。
実のところ、悟自身も安堵していた。レナードと一緒にいれば、いつΩ性が出てくるか冷や冷やして仕方がない。
運がいいことに、レナードの屋敷で雇われている使用人たちはβが多い。とりあえずは、レナードが帰ってくるまで安泰であろう。しかし、気を抜くことは許されない。
深呼吸して気合いを入れ直すと、アルバートが悟のほうへ向かってきた。
「サトルさん、サトルさん! 日本語また教えてもらってもいいですか?」
ニコニコとした笑顔でノートを持っている。
半年前ほどから、アルバートは日本語の勉強をし始めた。悟が日本の話をしていたら、どうやら興味を持ったらしい。今は夜間の学校に通っているようで、こうやって時々、悟が教えることもある。最終的には、ある程度、日本語が話せるようになったら日本へ行って、そこで文化などを学びたいようだ。
悟は、アルバートからノートを受け取ってペラペラめくる。
「ああ、いいよ。これアルバートが書いたの?」
「はい、四字熟語たくさん書きました!」
綺麗だとは言えないけど、丁寧に書かれた文字。何度も書き連ねて覚えたようだが──。
「アルバート、ちゃんと意味わかって書いてる?」
思わずクスクスと笑ってしまう。
四字熟語は、意味が理解した上で使うものだ。しかし、アルバートのノートには意味や英訳などどこにも書いておらず、ただただ覚えたい四字熟語が連なっているだけ。
書いてるだけじゃ意味ないよ、と悟が笑っていると、アルバートは可愛い、とポツンと呟いた。
だが、あまりにも声が小さかったため悟に届くはずがなく。
「ん、何? 何か言った?」
「いえ、なんでもないです!」
アルバートは腕で顔を隠しているが、ほんのり耳が赤くなっている気がする。チラリと目が合えば逸らされ、もしかして何か変なことでも言ったかな、と悟は首を傾げた。
その行動も、アルバートにとっては悪循環なものだとは知らずに。
「またそんなことをして……ああ、意味ですよね! えっと……今、勉強中なんです……」
「ほんとに? 見た目かっこいい文字書いてるだけじゃない?」
「う……。でも、サトルさんだって時々、英語間違えてます!」
「え、嘘……そういうのちゃんと教えてよ」
今までにそういうことをあまり指摘されたことがなかったため、知らないうちに間違った英語を喋っていたという事実がショックだった。もし、レナードに使っていたらと思うと、血の気が引くような思いだ。
悟が悲しそうな顔をするのに対し、アルバートはギョッとしてしまう。
さっきの言葉は、売り言葉に買い言葉みたいなようなもので、咄嗟に出てしまったものだ。嘘なのである。
こんなつもりじゃなかった。後悔したアルバートは慌てて弁明する。
「……すみません、冗談です。ちょっとからかいたかっただけです」
すると、悟の顔から徐々に悲しさが消えていき、ふんわりと笑顔になっていく。
「アルバート? 罰として使った食器を綺麗に磨きあげてね?」
「……はい、喜んで」
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