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買い出しに出掛けた二人と別れて、悟は屋敷中央部にある庭園に訪れた。温かいそこは、色んなラン科の花が咲き誇っている。白、赤、黄色。色とりどりで鮮やかに瞳に映る。
少し奥の方へ進むと、藍色のエプロンをつけた男が花の手入れをしていた。長めの黒髪を後ろで結っていて、特徴のある眼鏡をかけた顔は、年齢と比べて若めに見える。
「今年も綺麗に咲きましたね」
悟がその男の隣にちょこんと座ると、男は鼻をすすり目を細めた。
「……悟、薬くさいぞ。お前、注射打ったな?」
「ちょっと。朝一番の一言がそれですか、逢見(おうみ)さん」
逢見咲良(おうみ さくら)。この屋敷で庭師をしている日本人だ。悟とはレナードの前に仕えていた主人が同じで、そのことから引き続きレナードのところで雇われている。
「なんなんだ。お前もよそよそしくしないで用件をさっさと言ったらどうだ」
「じゃあ、遠慮なく……抑制剤ピルの成分、強くしてもらえませんか?」
彼はβ性ではあるが、頭脳に長けている。
特に、Ωの発情抑制剤。咲良は庭師であり、陰で悟の専門医でもあるのだ。悟のピルと注射器中にある液体状の薬は咲良が調合しているものだ。
咲良の調合する薬は、ほぼ完璧に等しい。発情を抑えられるし、αに寄っていっても欲情もしない。使う頻度さえ守っていれば、他の薬に比べて副作用も少ないのだ。
しかし、問題点を上げるとしたら、一つ。レナードである。これが不思議なもので、レナードの側にいると、あれだけ効いていた効果があっという間に薄れてしまう。αで偽り続ける限り、レナードという高い壁を乗り越えなければ前に進めないのだ。
咲良は、やれやれといった風に立ち上がり、前髪を掻き回す。
「そんなことだろうと思った。答えは一つ。無理だ、諦めろ」
ズバリという咲良に屈せず、悟はニコリと笑った。
「嘘はいけませんよ」
「嘘じゃないさ。これ以上、強いものを摂取してしまえば、身体の維持が出来ないってことだ」
「それは何度も言ってるでしょう? この身体がどうなったとしても俺は偽り続けるって」
「あー、そうだな。薬物中毒のお前に何度脅したって無駄だよな」
「……それだけに、金を賭けて生きてきましたから」
悟はグッと拳を握り締めた。そこは震えていて。
Ω性だと判断された時、どれだけショックだっただろう。一気に崩れていく家庭。離れていく友達。悟がΩだった。たったそれだけのことなのに。一瞬で、人生が崩れ去ったのだ。
Ωである自分が醜い。そして、怖い。
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