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庭園を出て執事室へ戻ると、そこは清掃中のようでメイドや見習いの執事たちが掃除機をかけたり、雑巾で机を拭いたりなどせっせと働いていた。掃除のため窓を開けていたみたいで、悟が扉を開けたことにより、風通しが良くなって涼やかな風が吹き抜ける。そうすると、パラパラと飛んでいく書類が見えて。
「ああ、ごめん。拾うから大丈夫」
慌てるメイドたちに謝りつつ書類を拾っていると、使用人が近づいてきてメモを手渡してきた。そのメモには、誰かの携帯電話番号が記されている。
「サトルさん。レナード様の秘書、ダリウス様よりお電話がございました。こちらの番号へ連絡して欲しいとのことです」
「わかりました。ありがとうございます」
用件を聞いた上で、そのメモを受け取る。
一体、なんなのだろか。
実はというと、悟はあまりいい気分ではなかった。その原因は電話をしてきた相手、ダリウスにある。
秘書といえば、大体レナードのこととなるはずなのだが、悟には必ずと言っていいほど、レナード本人から連絡が入るようになっている。しかし、時々、忘れたぐらいの時期にダリウスから連絡がある時がある。
その内容が驚くことに、恨みをもった嫌がらせだ。
その発端となったのはレナードで。当の本人、レナードが知っているのは、ダリウスが悟のことを日本人だから気にいらないくらいだろうか。だが、そんな軽いものじゃない。
ダリウスはレナードが会社を立ち上げた時からの秘書で、その間ずっとレナードを慕っていたという。そこに悟が入ってくることにより、レナードが悟へ溺愛してしまうことになり、酷く嫉妬心が芽生えたようだ。そして、ダリウスはαでプライドが高い。貴族や女性ならまだしも、同等の立場にいる男の悟にレナードを取られることが、あまりにも許せなかったらしい。それで、会話を交えるたびに、ちょっとした嫌味を言われるようになった。
悟としてはレナードに関して、αとΩのことでは恐れているが、あくまで主人と執事だ。付き合っているわけではないので、勝手に奪ってください、といったところなのだが、レナードがあの様子ではどうしようもないと思う。
今日は何を言われるのだろう。ダリウスは頭が良く、はっきり言う時もあれば、回りくどい言い方もする。とにかく電話をしないと、それはわからない。
今、執事室は掃除中だ。邪魔になりかねないので、悟は電話のある自室へ戻ることにした。
『はい』
「西園寺です。お電話を頂いたようで」
毎回変わらずのぶっきらぼうな声。一応、こういういざこざがなければ、仕事も出来る人だし、いい人でもあるのだが。
『はい。レナード様のスケジュールの件ですが、急用が入り、このまま出張先へ向かうことになります』
珍しいことにレナードの予定のことについてで、予想外のことに悟は思わず聞き返しそうになった。こういうことはレナードから直接連絡が来るので、今回はそれだけレナードが忙しくて手が離せないのだろうか。
『そして、今回の出張の期間ですが、……あ、』
「ん……? もしもし?」
安堵しきって聞いていると、途中で会話が途切れてしまう。微かにだが、奥で誰かの話し声が聞こえて。
すると、今度はよく聞き覚えのある声が耳に響いた。
『サトルか?』
「! レナード様……」
悟の声を聞いて肩の荷が降りたのか、レナードは一息吐いてから話し始める。
『ああ、すまない。ダリウスが勝手なことをしてな。時間があるから一旦戻ってから出発しようと思う』
「急用だと聞きましたが、よろしいのですか?」
『問題ない。荷物も取りに行きたいんだ……といっても、いる時間は少ないだろうが……その後は朝も少し話したが、一、ニ週間は戻ってこれないと思う』
「承知いたしました」
そう言うと、レナードが鼻でふっと笑った。
何かおかしなことを言っただろうか。でも、いつも通りのはずなのに。頭の中にクエスチョンマークを浮かべたまま、訳がわからず悟は首を傾げる。
『言うことは変わらないか。少し躾が必要かな』
「? 何がでしょう?」
『いや、何でもない。よろしく頼む』
「はい」
結局、答えは出ないまま電話はあっさり切れてしまった。特に気にすることはないのだろう、この点はそう片付けることが出来る。だが、先ほどのやりとでダリウスの機嫌を損ねてしまったのでは、という不安がどうにも収まらなかった。
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