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「で、お仕事なんだけど。この子Ωでさ、それ隠すために副作用キツい薬飲んでるの。この子に合う薬を調合してよ」
「え……」
秘密は守る、という約束はどこへ行ったのだろう。悟は困惑して、晴臣を見つめた。
この逢見と呼ばれる男は庭師で、その男にΩだと話し、薬の依頼をしていて。駄目だ。急なことで何がなんだか、頭がついていかない。
「何それ。まあ、確かにやりがいのある仕事だな」
咲良がそう言うと、晴臣はそうでしょ、と自慢げに笑った。そして、悟へ視線を向けて今度は優しく微笑む。
「……ごめんね、この人は君にとって頼りになる人だから、話を通しといたほうがいいと思って。大丈夫、咲良ちゃんは薬物マニアだから良いオクスリ調合してくれるよ」
「え? や、薬物……ですか?」
優しい顔をして、聞き捨てならない言葉を耳にして悟は復唱する。
「そうそう。凄く薬物に詳しいの」
晴臣は貿易商だ。もしかして、裏社会に手を出して密輸とか……と考えている間に、咲良がその思考を割って訂正に入った。
「待て待て、誰が薬物マニアだ。変な言葉を使って、人を騙すんじゃない。不安がってるだろ。安心しろ、ただ医薬用でΩの発情抑制剤を専門としてるだけだ」
……騙された?
悟は再び晴臣を見ると、そこには笑いの堪える姿があって。口を押さえて、プルプルと身体を震わせていた。これで確信する。
「からかったんですね?」
と悟が静かに言えば、もう我慢出来ない、と晴臣は吹き出す。それはもう腹を抱えるくらいの爆笑だった。
「あはは、素直だし真面目な子で可愛いな本当に。でも、笑っちゃうよね。それだけを研究してるんだよ? ほら、逢見さん気持ち悪いですね〜って言ってあげてよ」
ひいひい言いながら、まだ笑い続ける晴臣に、悟はどうしたらいいのかわからなくなる。すると、咲良が肩に手を置いてきた。
「笑わせとけ。笑いを取ったら何も残らない奴なんだ」
「うわ、それは流石に酷いな」
確かに、晴臣を見てきて印象に残るのは笑顔だった。晴臣自身もそうだし、晴臣と話す使用人もそうだ。そして、そこから感じ取れるのは信頼で。みんな晴臣を信頼している。
笑いを取ったら何も残らない。
ある意味間違ってはないかな、と悟は微笑んだ。
「あ。笑った顔も可愛い。君って守ってあげたいタイプだね」
それに、晴臣はふわりと笑って返す。
最初はヘラヘラとしていて、好印象ではなかった。でも、今はその笑顔が悟を変えようとしている。ほんの僅かな時間で、たくさんの種類の晴臣の笑顔を見た。悟の心は、どこか暖かいものだった。
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