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咲良への用が済んで、悟と晴臣は先ほどいた応接間へ戻ろうとしているところだ。抑制剤の件は後日、検査を行って専用の薬を調合してくれるとのことだった。
帰りも晴臣はなぜか手を繋いできて、嬉しそうにゆらゆらと繋いでいる手を揺らす。
「咲良ちゃんはね、βだけど頭が凄く良いんだ。庭師なんて、本当は勿体ないんだよね。そういう研究室にいたこともあるけど、やっぱりαが優位に立つからね……合わなくて、俺がここに引っ張ってきたの」
「そうなのですね……」
α、β、Ω。この性の格差については、人それぞれの価値観がある。
だが、やはりαは体力や頭脳が長けていることから社会において優勢で裕福な者が多く、β、Ωの順で難しい立場になってくる。残念ながら、これが運命、宿命、そういったものだ。
「なんで庭師なのって思うでしょ。本当はもっとその頭脳を活かして出来ることあるんだけど……あの人、意外とお花育てるの大好きみたいで、ここで庭師として働いて、自分の思う通りに研究が出来るならもう何もいらないんだって」
「……」
悟は、何とも言えない感情が込み上げて、顔を伏せる。無意識に繋いだ手をギュッと握っていて、それを晴臣が悲しそうに見つめていた。
「実はね、ここで──」
話を変えようと、晴臣は明るい声を出すと、メイドが小走りで近づいてくる。
「晴臣様! 今、ここから先はちょっと……」
「何、どうしたの」
「その……、」
そのメイドはオドオドとした様子で、あまり触れてはいけないような雰囲気だった。
「何にしろ、俺はここの主人だ。知る権利はある」
「は、晴臣様……!」
晴臣はメイドを横切る形で奥へ進んでいくと、とある部屋で倒れている使用人を見つける。
この時、悟の心臓が一際大きく高鳴ったのを感じた。その倒れている使用人が、強いフェロモンを出していたからだ。すぐ見ればわかる。フリーのΩの発情期だった。
この状況だと、メイドの言う通り、晴臣がここにいるのは不味い。だが、気づいた時には、晴臣はすでに使用人の元へ飛び出していた。その手にはハンカチを持って、鼻を塞いでいる。
「ごめんね、こんな格好で……大丈夫? 薬は?」
「予定より、早くて……っ」
「部屋まで歩けそう?」
晴臣の問いかけに、使用人はこくり、と一回頷いた。
まだ発情してから、時間が経っていないのだろう。この使用人は、辛い表情はしているものの、理性までは飛んでないようだ。
「偉いね。じゃあ、もう少しだけ頑張ろう。部屋まで運んであげるから」
しかし、晴臣が肩を貸した時、ぶわっとフェロモンが溢れ出るのを感じた。
それを近くで感じた晴臣は眉を寄せて、自らの腕を食いちぎるように噛んで。つうっと噛んだところから血が流れていく。そして、痛みで理性を保った晴臣が、悟に向かって叫んだ。
「悟は咲良を呼んできて! “怜が発情した”って言ったらわかるから!」
「……っ、はい!」
名前を呼ばれたことで、ようやくハッと気づいた悟は、咲良のいる庭園へと駆けていた。
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