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悟は、肩を落として立っていた。視線の先は扉があって、そこには先ほど倒れた使用人と晴臣、そして、悟が呼んできた咲良が入っている。
何も出来なかった。
発情しているΩを見て、自分と重なったのだ。怖くて、身体が凍りついたように動かなかった。晴臣は、危険を冒してまで、自らを傷つけてまで助けようとしたのに。何も出来なかった自分が情けない。
悟が自己嫌悪に陥っていると、部屋から咲良が出てきた。咲良は悟を見るなり目を丸くしたが、すぐに柔らかい表情になる。
「……安心していいぞ。何も問題ない」
それから、悟の肩をポンと軽く叩いて、その場を去っていく。
そして、咲良の姿が見えなくなってからだろうか。続いて、晴臣が部屋から出てくる。その姿は、なんだか疲れた様子で。
しかし、晴臣の目に悟が入ると、明るい空気が流れ始める。
「ここで待ってくれたの? 健気な子だね。そういう子、好きだよ」
嬉しそうに笑う晴臣に、悟は駆け寄っていって深々と頭を下げた。その姿に晴臣はぎょっとする。
「何も出来ず、申し訳ございません」
「え、なんで? 咲良ちゃん呼んでくれたでしょ? 最初のお仕事がそれになっちゃったなあ……ごめんね?」
「いえ、本当に何も出来なかったので……」
どうして、晴臣が謝るのだろう。何も悪くないのに。
その優しさに、悟の目頭が熱くなった。
「だから、シュンとしてるの? ああ、もう本当に可愛いな。全然気にしなくていいんだよ?」
晴臣は俯く悟の顔を覗き込んで、悟の頬をつんつんとつつく。
そして、悟の手を取って握ると、足を動かし始めて。ゆっくり歩きながら口を開いた。
「それよりΩの子がいて、びっくりしたでしょ。実はね、ここで働いてるΩって多いんだよ。あまり表には出せないから、雑用しか出来ないんだけどね」
「それでも、良いことだと思います」
応接間へ戻ろうとしているのだろうか。
悟は、晴臣の行くままに身を任せていると、綺麗に掃除されている廊下の先に換気のためか窓が開いていて、立派なカーテンが揺れているの目にした。晴臣の足は、そこを目指していて、その場へ着くと止まり晴臣の視線が外を眺める。
「そう……みんな口を揃えて、ここで働けて幸せですって答えるの。笑ってさ、可愛いよね」
ふわり、と舞う風。
悟は、晴臣の髪が揺れるのを見ていた。陽に当たって茶に透ける髪がさらさらと風の波に乗る。それが綺麗だった。
「それを見たり聞いたりしてたらさ、俺も頑張らないとって思うんだよね……」
ぽつん、と呟くように言った晴臣は儚げで、手が触れ合っているのに、どこか遠く離れた人物に見えて。
振り返った晴臣が悟に苦笑する。
「ねえ。今、君は幸せ……?」
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