アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
35
-
悪魔の時間という不幸の中で幸いだったのが、レナードの時間があまりなかったことだ。なので、次に商談が入っているとかで数十分くらいで帰ってしまった。
忙しく、嵐のような人。悟は、この短時間でごっそり体力を奪われたような気がしていた。しかし、何か印象的なことがあったわけではないが、今までの数々あった来客の中でもレナードはどこか記憶に残りそうな、そんな来客だったと思う。
不思議なものだな、と考えていると、
「ねえ、悟……」
と、晴臣に腕を掴まれてから声を掛けられた。
だが、その後に言葉が続いてこなくて、悟は小首を傾げる。
「……? どうかされましたか?」
晴臣は何か言いたそうな顔をしているのに。困った顔は微笑みに変わり、悟の腕を捕らえた手がそのまま降りてきて手を繋いでくる。
「部屋、戻ろっか」
「……はい」
どこか様子のおかしい晴臣に、悟は不安を拭いきれなかった。
さっきまでレナードと話していた空気はどこに行ったのだろう。そう思うくらいに、寂しい雰囲気が漂っていた。今だって晴臣に手を引かれ部屋に戻っているのだが、一言も喋らずに晴臣の背中を見ているばかり。
ゆらゆらと揺れる肩にかけた羽織。まるで、初めて会った時のように儚く感じた。触れているのに、遠い人。今までたくさんの時間を共有してきたのに、その理由はまだわからないままだ。
ふと、悟の足が止まる。
「どうしたの?」
「晴臣様……」
「ん、何?」
優しい声が悟の鼓膜を震わせる。そして、瞳を合わせると心がギュッと切なくなって。
「晴臣様はいつも明るく笑ってて、使用人たちにも友好的で素敵だと思います。けど、どうしてか無理して笑っていると感じる時がございます。何か悩んでいらっしゃるのですか? 私ではお力添えは出来ませんか?」
だが、晴臣はただ苦笑するだけだった。その対応に、ズキと心が痛む。
「大したことではないんだよ? 心配させてごめんね?」
「話してはくれないのですね……貴方はこうやって手を繋いで触れているのに、遠く感じてしまう。私は……時々、晴臣様がわからなくなります。それが苦しい……」
本当はこれ以上手を出してはいけないのに、どんどん言葉が溢れてくる。主人である晴臣に尽くす。それは、すでに従者という立場を越える想いだった。
鼻の奥がツンと痛んだ矢先、頬に濡れる感覚を感じた。
「俺のせいで苦しいの……? 俺のせいで、涙を流すの……?」
「私はただ晴臣様をもっと知りたいだけなんです……」
晴臣は悟から視線を外して、遠くを見つめる。そして、再び悟の手を引き始めた。
「……おいで。部屋で話そう」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 314