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晴臣の部屋に入ると、晴臣はちょうどドアと対面している奥の窓へ行き、外の景色を眺めた。遠くを見つめる様は、何も近づかせないようなオーラを放っていて。
「晴臣様……」
悟は、そこを敢えて近寄っていく。そうすると、晴臣が悟のほうを向いた。表情は逆光ではっきりと読めなかったが、何かしら笑顔を作っているように感じる。
手を伸ばせば、いつか届くのかな。儚く散ってしまいそうな、あの人に。
「みんないい子だよね。たくさんのものを俺は貰ってるよ」
「それは、晴臣様を信頼しているからです」
コツン、コツン、と一歩ずつ確実に近づいていく。そして、手を伸ばす。
「俺って信頼出来る人なの?」
「ええ。だから、今があるのでしょう?」
伸ばした手で晴臣の両手を握ると、すぐに握り返してきてくれて安心した。手の温もりを分かち合う。それがとても心地よくて。
「本当に? 無理してないのかな……悟だって、俺がここにいる時は強制的にそばにいさせてるし、苦しくないの?」
「苦しくありません。晴臣様が望むのであれば、私はそうしましょう」
「望む……? だったら、俺の番になれって言われたらそうするの?」
悟は、晴臣のとある表情を見て凍りついた。
「え……? それ、は……」
支配者の瞳だ。
それは、初めて見る晴臣のαらしい血が流れた瞬間だった。今まであまり感じたことのなかった晴臣のフェロモンが漂う。甘く蝕んで虜になってしまいそうなほど、誘惑的なフェロモンだ。
しかし、晴臣はすぐに切り替えて、それを消し去る。
「流石に躊躇ったか。安心して、冗談だよ」
「……っ、晴臣様が、望むのであれば……」
正直、怖かった。番になればΩだと突きつけられる。先の未来も予想がつかない。
その気持ちは触れ合う手に表れていて、それを感じ取った晴臣が困ったように笑った。
「駄目だよ、嘘をついたら。震えてる。……でも、その気持ちが嬉しい」
「晴臣様……っ?」
一瞬で、鼻いっぱいに晴臣の匂いがくすぐる。解かれた晴臣の手は、悟の背中を回っていた。
抱き締められてる。そう意識すると、一旦冷えた体温が急激に上がって悟は眩暈がした。
「今日だってね、レナードに君が欲しいって言われて嫉妬しちゃった。いや、今日だけじゃないんだよ。αの血が騒ぐのかな。みーんな悟に目を奪われちゃう。優秀な執事ですって自慢しておきながら、嫉妬とか馬鹿みたいでしょ?」
抱き締める力が強くなる。それにさえもキュンとして。心臓の制御で精一杯になり、頭の中が思うように追いつかない。
「番とまでは言わないから、悟が全部欲しくてたまらない……俺って凄くわがままなんだよ」
少し掠れた声が耳元で紡がれた。ぴく、と悟の肩が跳ねる。そんなのずるい。どうしようもなく、もどかしくて。
しかし、悟が恐る恐る晴臣の背に手を回そうとした、その時だった。
どん、と晴臣に胸を押されて、身体が離れていく。
「はる、おみ……様……?」
どうして……?
拒絶されたことは、さることながら。悟に映っているのは、晴臣が崩れ落ちて咳き込んでいる姿だった。
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