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「晴臣様!」
悟は、晴臣へ身を寄せる。
止まらない咳。苦しそうな息と共に、晴臣の顔色は先ほどと打って変わって血色がなかった。
今、何が起こっているのだろう。これまでに、体調が悪そうだと感じた時はなかったのに。笑顔絶えない晴臣が、苦しんでいて。
この光景が嘘だと言って欲しかった。
「すぐ医者を……!」
「いいんだ。もう、このことは……わかってること、なんだよ……」
落ち着いてきたのか、晴臣は口元を拭い、口を開く。
「ですが!」
あまり見えなかったが、晴臣が口を拭う時、一瞬だけ手のひらと口元が赤く染まっているのが見えた。あれは血液だった。このまま放っておくのは、命の危険があるのでは。
しかし、晴臣は悟の腕をしっかり掴み、悟を睨みながら首を横に振った。その顔は、やはり真っ青で。
悟は、力が抜けたように座り込んだ。
「いつからですか……」
「元々、肺が弱かったんだ。まあ、完全に確定したのは君が来てからすぐのことだったかな」
「知っている方はいらっしゃるのですか」
「いない。ぎりぎりまで、みんなを悲しくさせたくないからね」
「っ、……大したことでは、ないのですよね……?」
「……もう長くはないよ」
どうして、どうして。
なんで、今まで気づかなかったのだろう。一番、晴臣の近くにいたはずだ。たくさんの時間を共有したはずだ。
みんなを悲しませたくない。
使用人たちに会う度に話しかけたり、笑ったり、困った時は手助けしたり。そして、その傍らで見せる儚げな雰囲気、遠くを見つめる瞳。
──それを見たり聞いたりしてたらさ、俺も頑張らないとって思うんだよね……。
すべては、きっとここに繋がっていたのだ。これが悟の知りたかった晴臣だった。
「あーあ。せっかく良い雰囲気だったのに、台無しになっちゃった……」
「どうして……?」
急に押し寄せる絶望。いつか近いうちに晴臣を失ってしまう日が来る。信じ難い事実だが、悟が目にしているのは現実で。
「本当はね、もう欲しがってはいけないんだよ。みんなからたくさんのものを貰ってるから。でも、駄目だとわかってるのに君を求めてしまう……何でだろうね」
「晴臣様……」
どちらからともなく身を寄せ合う。
抱き締められる強さ、受けとめる晴臣の体温。そして、聞こえる鼓動。悟は、涙が溢れそうになる。感じる晴臣のすべてが、愛おしくてたまらなかった。
それを失わぬよう大切に、悟は自らの腕を晴臣の背に回した。
「ねえ、悟。俺はわがままだよ。残りの命、悟でいっぱいに満たしてくれる?」
晴臣の指が悟の唇に触れて、形を確かめるようになぞる。
「ココにしてあげたいけど……出来なくてごめんね」
そして、晴臣の顔が近づいて唇の代わりに触れ合ったのは頬だった。柔らかい頬を擦り合わせると、晴臣はゆっくりと離れていく。
「これが君へのキス代わり。悟と俺だけの秘密」
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