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ふと意識が浮上した。
悟は重い瞼を開くと、明るい日差しが入ってきて目の前が白く光る。嗅ぎ慣れた匂いや、次第に見えてくる光景に、ここが自分の部屋だということは理解出来た。
懐かしい夢だった。甘くて、罪深い夢。あれ以上、夢を見なくて良かったと悟は目を伏せる。
それから上体を起こすと、下半身に違和感が走り、眉を寄せた。
「サトル……」
「……レナード様」
すると、シーツの擦れる音でレナードが気づいたようで、心配そうに悟に声を掛けてくる。
ああ、レナードと番になり、セックスをしてしまった。悟は気づく。
「良かった。身体の具合は、」
「いやっ!」
「っ、すまない……」
蘇る記憶の中、恐怖が黒く霞がかるように悟を覆いつくし、伸びてくるレナードの手を勢い良く叩いてしまう。
拒まなかった。求め乱れて狂ったように感じて。はしたない。でも、あの震えるほどの快楽は忘れられそうになかった。
レナードを見てしまえば、それを鮮明に思い出してしまう。だから、悟はレナードと目を合わせられなかった。
重い空気が流れる中、悟の部屋の扉が開く。入ってきたのはダリウスだった。
「レナード様、いい加減にしてください。これで何度目だと……」
時計を見ながら焦った様子のダリウスは、起きている悟を見た瞬間、物凄い形相へと変わる。
「……お前っ、よくもレナード様を!」
そして、カッカッと床を蹴るようにして悟へ近づいては、その胸倉を掴んだ。
「ダリウス、やめろ」
「なぜ庇うのですか!」
レナードがダリウスを止めようとするが、それを無視して悟へ顔を近づけると、きつく睨みつけた。手は怒りに震え、目尻は紅を帯びている。
「良いご身分になったものだよな……目的は金か? 地位か? レナード様には、婚約の話もあるんだ! そこまでして手に入れたかったものか!」
「ダリウス! すぐ行くから、お前は車の中でおとなしく待っていろ」
舌打ちをしながら、ダリウスは掴んでいた胸倉を離した。最後に、お前だけは許さない、と小言を残して、そのまま悟の部屋を出ていく。
パタン、と音を立てて閉まるドア。その後からレナードから謝罪の言葉が降ってきて、悟は顔を上げた。しかし、視線が合った瞬間に身体が跳ねて、反射的に目を逸らしてしまう。
レナードは、その反応に肩を落としながら優しく声を掛けた。
「サクラから薬の件は話を聞いた。今は抑制剤を打ってもらって落ち着いていると思うが、身体の具合だけ聞かせてくれ」
「……大丈夫です」
「そうか。本当は傍にいてやりたいのだが、まだ片付けなければいけないことがあって、すぐ出なければならないんだ。使用人たちにはサトルのフォローを任せてある」
そう言った後、しばし沈黙が流れる。
レナードはポケットへ手を突っ込み、ある物を握り締めていた。言いづらそうにしながら口を割って、握っているものを悟へ渡す。
「それと……サクラから飲ませておけと」
「……“後処理”ですか」
悟の手に乗った物は、咲良から貰った薬だった。どうやら悟はどんな薬か知っているらしく、見ただけで理解した悟にレナードは拳を強く握り締める。
“後処理”と呼ばれた薬は事後避妊薬だ。言葉の通り、時間内に服用することによって、もしもの時でも避妊が出来るというものだ。Ωを狙った事件が多い世の中、最近では抑制剤の処方と一緒に、万が一のためと持っておくΩが多いという。
悟は、ピル状のそれを手を止めることなく、口に含み飲み込む。
「……躊躇いもなく飲むんだな……」
「困るのは貴方でしょう」
これにレナードは傷ついた顔をしただけで、何も答えなかった。それから、行ってくるという言葉と共に、靴音と扉が閉まる音。静まり返る部屋。
項を触ると、じわりと痛みが走り熱を持っていた。自分はΩ。そして、レナードの番。叩きつけられる現実に、悟は静かに涙していた。
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