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悟の隣で咲良は膝を折り、ぽんと悟の肩に手を乗せた。
「俺は、悟がΩとして幸せになって欲しいから、あえて言う」
ぴく、と反応を示す悟の身体。そして、揺れる瞳。その瞳は懐かしいものを見ているようだった。
それは晴臣だということは、咲良もなんとなく想像がついた。いつの日か、同じことを晴臣は言ったのだろう。
「俺はこのままレナード様との番を素直に受け入れたら良いんじゃないかと思う。世間に何言われようが、簡単に落ちぶれる人じゃないしな」
「それは、出来ません……」
「ただ一つの選択肢だ。お前が選ぼうが選ぶまいが自由だ。確かにαに偽って生きることで、得るものは沢山ある。けど、ΩはΩなりに生きる道がある。今がそのチャンスなんじゃないのか」
しかし、悟は首を横に振り続けるだけだった。
「お前の塞いでるものはなんだ? 晴臣か?」
「色々、あるんですよ」
「晴臣がその一つに含まれるなら、晴臣も悟がΩとして幸せになることを願ってると思う」
悟が咲良の言葉に何を思い、何を感じたのか。それは奥底に隠れてしまっていて、その変化はわからない。
ただ、咲良へ向ける微笑みは、もうそれ以上何も言わないで、と訴えかけているようだった。
ここ数日で、悟の仕事量は増えつつあった。
増えたというより、フォローしてくれる人材がいなくなった、頼みにくいなどの理由だが、やはりそのダメージは大きい。前までは、悟が気づいて作業をしていれば、私がやります、という声が聞こえてきたのに、途端に寂しくなったものだ。
だが、悟はそんな使用人やメイドたちを、不愉快だと思わなかった。むしろ、手伝わせていた頃に悪いなと思っていたので、その点については心が軽やかだった。相変わらずの視線にレナードのフェロモンが気になって仕方がなかったが、執事として仕事を一つ一つこなしていく。そのことが初心に戻ったようで、新鮮な気持ちだった。
そして、アルバートは、前に言った忠告を真っ直ぐ受け止めてくれているようで、悟を避けるように行動している。ベンもベンで、厨房のほうが厳しいらしく顔を合わせることはなかったが、部屋に温かい食事を届けてくれていた。正直に言えば、前のように話すことが出来ないのは寂しいものだったが、それで十分だった。
Ωの悟に嫌悪を持っている者もいるかもしれない。その上、屋敷の主で婚約の話が出ているレナードと番になったのだから。しかし、使用人をまとめる立場にある悟には、何か危害を加える者もいない。避けられるだけだ。それは思っていたよりも、平穏な日々だった。
「おかえりなさいませ、レナード様」
「ただいま……と言っても、荷物をまとめたらすぐ出ることになる」
さらに、悟にとってただ一つの問題、レナードはというと婚約より仕事優先という様子だ。
使用人、メイドの中には怪しい目をする者もいたが、実際、話をするのは他愛もない話ばかりで。そういう暇がないからかもしれないが、あの事実が嘘かもしれないと思うほどに、レナードから番の件や、あの夜の件について触れてくることはなかった。
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