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とはいえども、平穏な日々は続くはずがない。
とうとうレナードが婚約を破棄した、という情報が悟の耳に入ってきたのだ。当分の間、何も動きがなかったため、悟はずいぶん油断していたようだ。聞いた時、息をするのを忘れるくらいに、その事実はずっしり重くのしかかってきた。
それを機に、悟へ向けられる視線や、ひそひそと聞こえてくる声は痛いものへ変わっていく。予兆もない突然の出来事に、悟は焦りと戸惑いで頭がいっぱいになっていた。
「きゃっ!」
ガシャン!
そのことで考えながら歩いていると、廊下の角でメイドとぶつかってしまう。そのメイドは重ねた食器を持っていてバランスを崩したことにより、持っていた食器のほとんどが床へ落ちて割れていた。
やってしまった……。
悟は考えごとをしながら歩いたとこと後悔して、メイドへ手を差し伸べる。
「ごめん。大丈夫?」
「ひっ」
しかし、その手はメイドを怯えさせただけで。
助けるだけなのに、そんなことも許されないのかと思うと、ショックだった。
「何事ですか!?」
食器の割れる音は、大きく響いたようだ。音を聞きつけた者たちが集まり始める。
それをまずいと感じた悟は、これ以上大事にならないように素早く行動に移した。
「……ごめんね、怪我はない? 立てそうかな? ここは片付けるから、割れてないの運んで」
「で、ですが……」
「いいから、早く……すみません、私の不注意です!」
目を合わせることによって承諾したメイドは、悟へ頭を深く下げて、この場を離れていく。そして、悟がそう叫べば、嫌な視線が悟へ注がれ、やがては何事もなかったように悟の周りは閑散としてしまった。
落ち着いた空気に悟は一息つき、黙々と大きな破片から集めていく。
すると、後ろから近づいてくる足音が聞こえて。いつものように無視すればいいと思っていたが、その足音は悟の目の前で止まった。
「手伝います」
一言添えた上で、静かに伸びてくる手。それは悟と同じように、食器の大きな破片を拾っていく。
悟が顔を上げれば、
「アルバート……俺の近くにいたら駄目だ」
そこにいた人物はアルバートだった。
アルバートは、いつになく真剣な表情をしていて、悟が止めようとしても手を動かし続けていた。
「やっぱり、サトルさんがこういう扱いされるの、間違ってると思います。今まで手助け出来ず、申し訳ございませんでした」
「けど、駄目だよ。アルバートだって、どういう扱いを受けるかわからない。俺のことは放っておいていいんだ」
「いけません。これは俺が決めたことですから」
そうやって、真っ直ぐものを見ている様は頼もしいものだ。何にもめげない姿勢のアルバートに、悟の鼻の奥がツンと痛くなる。
「……ありがとう、アルバート」
そして、そう言う悟の声は震えていた。
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