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アルバートと食事をとる。
パンに、ローストビーフとポテトとヨークシャープディング、そして、トマトをベースとしたスープ。
よほどお腹がすいていたのか、アルバートは次々と食べ物を口に運んだ。その食べっぷりは微笑ましくもあるが、その現状に悟は持っていたパンをトレーに置く。
「アルバート、辛くないのか?」
「ん……沢山覚えることがあって、大変と言えば大変ですけど」
「そうじゃなくて……」
モヤモヤと押し寄せる悲しみに、悟の顔は伏せがちになる。
すると、アルバートが机の上に乗った悟の手へ、覆い被せるように自らの手を置いた。驚いて顔を上げると、ニッと笑うアルバートの表情が映って。
「気にしないでください。前よりやりがいがありますし、遠くでサトルさん見てるよりマシです」
「Ωといて、何とも思わない?」
おずおずと聞く悟に、今度は苦笑するアルバート。そして、なんでそんなこと聞くかな、と呟いた後、続けて喋る。
「思わないから、ここにいるんですけどね……俺はβだし、平凡だからそう思うだけかもしれないですけど、αでも最悪なやつは最悪だし、Ωでもいい人はいい人です。だから、サトルさんはサトルさんです。そのサトルさんについて行きたいから、ここにいます」
「そっか……」
「解決しましたか? そんなこと考えるより、食べる手を進めてくださいね?」
アルバートにそう言われて、悟は再びパンを手にした。心なしか、先程よりも食欲は出てきたし、喉通りも良くなったような気がする。
今の悟にとって支えてくれるアルバートの存在は、とても大きなものだった。自ら遠ざけておきながら、本心は心細かったのだろう。アルバートがそばにいてくれて、心の底から喜びを感じていた。
心暖かくて微かに口元を綻ばせると、悟の部屋にノック音が鳴る。
「俺、行きますよ。サトルさんは食べててください」
それを聞いたアルバートが素早く反応して、来客者を迎えに行く。
しかし、何か伝達されたらしいアルバートは行く時とは打って変わって、ゆっくりと帰ってきてなお、複雑な顔をしていた。
「何だって?」
「……レナード様がご帰宅されたそうです。それで、サトルさんをお呼びだと」
「わかった。行ってくるよ。今日は特にやることないし、これ食べたら部屋に戻っていいから」
悟は残ったパンを頬張って、燕尾服を羽織る。そして、部屋を出ようとすると、
「サトルさん!」
咄嗟にアルバートから手が伸びてきて、腕を掴まれた。
「どうした?」
「サトルさんこそ……無理なさらず」
そこからは不安を覗かせていた。行かせたくない、とでもいうかのように掴む力は強い。
心配する気持ちは素直に嬉しいものだ。だが、悟は微笑んで、アルバートの手をそっと払う。
「大丈夫だよ、アルバート。レナード様の命令だ。行かなくちゃ」
パタン、と閉まる扉はあまりにも静かだった。
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