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運ばれてきた食事はレナードと同じもので、悟の手は度々止まる。使用人たちが何を思ってこの食事を運んだのかと思うと、口へ運ぶのも億劫だったし、喉へ上手く通すことが出来なかった。
今この部屋にいるのは、悟とレナードだけだ。レナードがすべての食事を運ばせた後、使用人たちを追い出したのである。その点は正直ありがたいものだったかもしれないが、二人に重い空気が流れていることも事実であった。
悟の様子を見ながら食事をしていたレナードは、悟の手が完全に止まったことに不安を抱く。悟の皿は運ばれてきた時と同じくらいの量が乗ってあり、減る気配もなさそうなのだ。
「もういらないのか?」
「いえ……ちゃんと食べますから、放っておいてください」
「……そうか。終わったら言ってくれ」
ずっと俯いている悟は、ガタッと物音が聞こえて思わず顔を上げてしまう。どうやら、レナードは食事が終わったようで、本棚に行っては数冊の本を取って席で読み始めた。
悟を待ってくれている。そう感じると、ゆっくりしていられなくて、悟は急ぎ手を動かし始める。
すると、レナードがふと笑って。
「急がなくても、ゆっくり食べればいい」
目が合ったことに悟は目を丸くするが、次第に伏せ目がちになる。手を動かすが、やはり食べる気にはなれず、なかば突っ込む形で食事を済ませたのだった。
ようやくレナードの部屋を離れて、悟は執事の仕事に没頭した。……つもりだが、どこか上の空になってしまい、皿を磨いている最中に落としそうになってしまった。
ああ、いけない。その時はそう思うのだが、時間が経つとまた同じことを繰り返してしまう。そんな感じで皿磨きを続けていると、とある使用人が悟へ声を掛けた。
「サトル様、そこは私が変わりましょう。サトル様はお休みになってください」
「え……」
「……どうかされました?」
悟は、驚きを隠せなかった。
避けられているのに、いきなり話しかけられたというのもある。だが、それ以上に気になったのは、使用人の態度だった。
「こっちの台詞だよ……やめて、そんなにかしこまらないで……」
今朝のアルバートと同じだ。妙にかしこまっていて、どこか他人行儀な態度。
確かに、悟は上司にあたるが、まだ気軽に話せていたほうだと思う。「そこは俺がやりますよ!」という風に。しかし、今はどうだろう。まるで、レナードと同じような態度をとっているではないか。
「ですが、」
「レナード様から何か言われた?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「だったら、やめて……」
婚約の破談に、今朝の悟の扱い。レナードに何も言われていないというのなら、みんな自然とレナードと悟の状況を把握したのだろう。
悟が言ったことに、使用人はどうしたらいいのかと迷っているようだった。
ズキン、と心が痛む。その姿を見ていられなくて、悟はやむを得なくこの仕事をお願いすることとなった。
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