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持ち場を離れて、悟の気持ちは沈んでいくばかりだった。
一人になれば、それだけ考え込む時間が出来てしまう。しかし、みんなに合わせる顔はすでにない。それの繰り返しだ。
今まで毎日、悟についていたアルバートも今朝以降、姿を見ていない。見回りの関係で一通り屋敷の中を歩き回ったが、やはりアルバートの姿はなかった。
今朝は、アルバートに何も言えなかった。アルバートと会ったところで、悟は釈明をするつもりもないし、今まで通り仕事の補助を頼むつもりはない。ただ一言謝りたかった。謝って何かが変わるとは思えないが、最低限の礼儀だと思うから。
すると、ちょうど開いていた窓を閉めようとした時、大きな紙袋を抱えているアルバートの姿が見えた。どうやら、買い出しに出ていたようだ。
それを見た瞬間、悟は無意識にアルバートの元へ駆け出していた。
急いで使用人専用の出入口に向かうと、たった今戻ってきたアルバートいた。
「アルバート!」
「サトルさん……」
いつもの買い出しの手伝いだろうか。抱えている大きな紙袋の中には、色んな食材がたくさん入っているようだ。
「おかえり。良かった、探して……」
「すみません!」
悟は微笑んで出迎えてアルバートの元へ駆け寄っていくと、アルバートの声が妙に響いて咄嗟に足を止めてしまう。そうすると、アルバートは渋い顔をして。嫌な予感がした。
「え、どうしたの?」
「ちょっと、自分の気持ちに整理がつかなくて……今、サトルさんと話せる余裕がないです。俺からサトルさんについていくって決めたのに。本当に、すみません……っ!」
そして、走っていくアルバートとすれ違う。悟は何も反応が出来ず、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
せっかく会えたと思ったのに、あっという間に終わっていくアルバートとの時間。一体、何をしに来たのだろう。静かな空気が虚しさを表現する。
「……そうだよね」
悟は苦笑して、拳を強く握った。
昨晩のことがあって、悟だけではなく、アルバート自身も穏やかな気持ちではいられないはずだ。考えが甘かった。もう少し考えれば、許されるはずがないということは、すぐわかったことだ。
Ωじゃなければ……自分がΩじゃなければ。傷つけることも、信頼を壊すこともなかったのに。今までだって、そう。失ったものは全部、何もかも、自分のせい。
──俺がΩだから。
Ωだと認めたくない。しかし、叩きつけられる現状。気持ちが悪い。憎い。
「そうだよね……ごめん、アルバート」
振り返ることもせずにアルバートへ向けた謝罪は、届くことはずもなかった。
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