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「番の俺自身が薬に頼る方法もどうかと思っていたが、やはり愚行だったか」
「……悟は自分をΩだと認めたくなくて、薬を飲んでるんです。確かに社会において薬は必要なものです。けど、悟を見てると、それが正しいのかわからなくなります。悟には偽った幸せじゃなくて、Ωとして幸せになって欲しい……そんな風に思います」
「ああ、そうしてやりたいよ。わかっているんだが……」
昨晩、発情期が治まるまで悟を抱いた後、寝るに寝つけなかった。複雑だったのだ。番まで解除しろと言われ、その後身体を求められたことに。一時的に愛し合っているが、その中身は一方通行で。
それでも、悟の辛さが和らぐなら、と思ったが、それは違った。
抱き締める身体は震えていた。それから、悟は涙を流し、晴臣の名前を口にした。
離したくない、渡したくない。愛しても、愛しても、悟は拒む。そして、苦しむ。それを嫉妬と焦りに変えて、酷いことしか出来ないし、酷いことしか言えない。発情期で辛い悟を助けることさえ、苦しさを生むだけだった。
「どうすればいい……どうしたら……」
悟を幸せに出来るのだろう。
「こちらも出来る限りのサポートは致します。どうか悟をよろしくお願いします」
咲良が深く頭を下げる。
すると、使用人が慌てた様子で中庭まで走ってきた。どれだけ走り回ったのか知らないが、汗だくで息も切れていることからなかなかのものではないかと予想出来る。
「レナード様、こちらにいらっしゃいましたか! 急ぎお伝えしたいことが!」
「一体、何事だ?」
レナードは、眉間に皺を寄せた。しかし、内容を聞いて一変することになる。
屋敷内であるのに、これほど遠いと思うことは初めてだった。
レナードは、全力で廊下を駆け抜けていた。何度か慌ただしくしている使用人やメイドとぶつかりそうになったが、そんなことどうでもよかった。次第に荒くなる息遣いに、速くなっていく鼓動。だが、足を止めることだけは絶対にしなかった。
──サトル様が自室で……!
使用人から告げられたことは、あまりにも衝撃的なことで。
目的の悟の部屋に到着すれば、ノックもせずに勢いよく扉を開ける。
「サトル!」
悟は、机の前で横たわっていた。最悪なことに、レナードの呼びかけにはまったく反応を示さない。
そして、悟の周りには何本かの注射器が落ちていて。中身はすべて空になっていた。
「サトル……なぜだ、なぜこんなことを……!」
倒れている悟をレナードは抱え上げる。顔を見ると青白く、長い時間見ているのは辛いものがあった。
この光景を嘘だと思いたい。しかし、そこまで悟を追い詰めていたのだ。悲しさに、悔しさ。すべての痛みがレナードを襲った。
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