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晴臣の病を知ってから、意外にも穏やかな日々が続いていた。晴臣がそういう素振りを見せないというのもあって、蜜月という甘い日々に脳が溶かされつつある。
しかし、こうやって何気ない時間でふと現実に戻ってしまう。
晴臣の眠っている顔が、穏やかで怖い。笑顔を見ていると、すぐ忘れてしまう限りある時間が呼び戻されて。今のように手を握るのも、このまま目覚めないのではないかという心配を取り払う安心材料だった。
体温がある。微かに脈を感じる。ああ、晴臣は生きている、と。
「晴臣様……」
悟は静かに名前を呼ぶ。そして、光のある願いを込めて、きゅっと握る手の力を強めた。
夜になると、レナードが晴臣の屋敷にやってきた。
悟と初めて顔を合わせた時は一年ぶりと話していたため、次に会うのはいつのことになるのだろうと思っていたが、その考えは覆される。今日のように夜に来たり、仕事の合間に来たり。晴臣が呆れるくらいに、レナードはたびたび訪れていた。
時々、面倒くさいなあ、と晴臣が渋る時もあったが、やはり気が合う友人というだけはある。急な来客であれ、晴臣はレナードに文句を言いながら、すべて対応していた。
「何時だと思ってるの……俺を甘く見すぎ」
時刻は、もうすぐ日付けが変わる時間だ。
ジト目な晴臣に対して、レナードはニコニコとして、ゆったりソファーに座って寛いでいる。
「そう言いながら、受け入れてくれるハルオミは好きだぞ」
「やめてよ、気持ち悪い。元々、甘い顔をしているんだから、そういうのは恋人だけにしてよ」
引き攣った顔で晴臣が言うと、レナードも眉を寄せて。
「友人としてだが」
「そんなのわかってるよ! その顔でそんな軽く好きとか言ってたら、変なの釣れるよっていう注意!」
深い溜め息をつく晴臣に、お茶の準備をしていた悟は頬を綻ばせた。
屋敷の者に対しては優しいのに、レナードに対してはキツく対応する晴臣。それでも、なぜか仲の良さは伝わってくるし、実際そうなのだと思う。だからこそ、最終的には受け入れる。こういうやりとりから、悟自身もレナードが訪れるのは案外好きなほうであった。
「ほんと君も暇になったよね。早くイギリス帰って仕事したら?」
「馬鹿言うなよ。今は日本でやることがあるんだ。そういうハルオミこそどうなんだ。昔は色んな場所に行っていただろう」
突然、悟の心臓が跳ねる。
レナードは、晴臣の病のことを知らない。笑いながら言うそれは残酷だ。
「……少し疲れたから休憩かな。レナードより規模も小さいし」
「疲れたって……何かあったのか?」
「特に何もないよ。日本での仕事を集中したくなったってこと。なんだかんだ自分の国が一番好きだからね」
少しの間があった後、晴臣はいつものペースで喋り始める。悟が知る前も、晴臣はいつもこういう状況だったのだと思うと、心が痛かった。
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