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この最近、使用人たちは忙しい日々を送っていた。その理由はというと、もう少ししたら晴臣の誕生日だからである。
毎年、晴臣の誕生日にはパーティーを開催する。
パーティーといっても誰かを招待するようなものではなく、この屋敷にいる者たちだけでするものだ。これは、たまにはみんなも贅沢しても良いでしょ、という晴臣の配慮だった。だから、この日だけは盛大に晴臣を祝って、盛大に楽しむ。晴臣邸で最大のイベントだ。
「悟くん。だいたいのメニュー決まったんだけど、どうかな?」
今回のパーティーは悟を軸に動いている。晴臣の近しい存在、晴臣のことなら何でもわかるから適任だと即決であった。
「ありがとうございます。えっと、そうですね……あ、ケーキのデザイン可愛いですね」
今はパーティーに出す料理をシェフと一緒に考えているところだ。
メニュー名に材料。ざっと目を通すと、最後のページにはバースデーケーキのデザインが描かれていて。たくさんのフルーツを使って、色とりどりの花が形作られていた。
可愛らしいそれに顔を綻ばせると、背後から愛しい声が聞こえてくる。
「何してるの?」
「あっ、晴臣様は見てはいけませんよ」
近づいてくる晴臣に、シェフはいそいそとメニューを隠すように立った。それを見て、悟も中身が見えないようにメニューを裏返す。
「そう言われると余計に気になるなー」
「内緒です」
「だってさ、悟。内緒なの?」
微笑ましく会話をしている中で、晴臣にいきなり話を振られて驚くが、悟はすぐに目を細めた。
「そうですよ。いけないものは、いけません」
「あれ、悟も駄目か……じゃあ、当日のお楽しみだね」
「はい」
すると、シェフが何かを思い出したように、そういえばと続ける。それは、悟にとって衝撃的な言葉であった。
「晴臣様。メイドたちが風邪を心配しておりましたが、具合は大丈夫ですか?」
え、と悟は呟くが、あまりにも小さな声で二人の耳には入らない。
「風邪? この通り元気だけどね」
「そうでしたか。咳をしていらっしゃる姿が気になったと申してましたので」
それはいつのこと? どこで? どんなふうに?
不安が渦巻く。確かに、晴臣は病に侵されている。それでも、悟が見てきたのは元気で笑顔いっぱいの晴臣だ。そんな姿、あの時以来見たことがないのに。
知らない間に、晴臣の時間はすぐそこまで迫っているのだろうか。
「晴臣様……」
悟は、晴臣が着ている着物の袂を握った。手は震えている。
それを静かに感じとった晴臣は、にこっと笑顔になって。
「特に心配することじゃないよ。悟もそんな顔しないで」
しかし、安心して笑っているシェフに対して、悟は表情が固まるばかりだった。
晴臣の笑顔が、本物か偽物かわからなかったからだ。
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