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「……さて、邪魔者は退散しようかな」
晴臣は変わらず、明るい雰囲気でこの場を去ろうとする。
その行動が悟にとってははぐらかす行為に見えて、ドクドクと心臓がうるさく鳴った。晴臣の真意はどうなのだろうか。気になって、目線で晴臣を追いかける。
すると、横から心配の声が聞こえてきて。
「大丈夫?」
「あ……すみません。あとでチェックして厨房に寄りますね」
意識が戻ってきた悟は、勢い良く椅子から立ち上がる。そして、晴臣の後を追うように駆け足で部屋を離れた。
晴臣が部屋を出て行ってからあまり時間が経っていないのもあって、近くを探せば晴臣はすぐに見つかった。
開いた窓に肘をかけて、遠くを見ている晴臣。そよ風が茶に透ける髪の毛をなびかせている。
晴臣の視線の先はどこなのだろう。ただ、景色を見ていないことはわかっている。切ない。心臓がきゅっと締めつけられて。
「晴臣様」
名前を呼べば、晴臣は振り向いてふわりと笑った。
「悟? 俺を追いかけていいの? 嬉しいに越したものはないけどね」
「大丈夫です。それより晴臣様、先程の風邪のことは……」
「聞いてなかった? 気にするほどじゃないよ」
にこ、と見せる表情はさっきと変わらない。それが悟の不安をより一層掻き立てる。
「本当なのですか?」
「嘘をついてどうするの」
「晴臣様……!」
悟の悲痛な声が響いた。
すると、急に晴臣が悟の手を握ってきた。安心させるように両手で包まれて、優しくとんとんと叩かれる。
「大丈夫だよ。本当にね、悟と一緒にいたら元気でいれる気がする。いったいどんな魔法かけたの?」
「私には、そんな力はないです……」
無邪気そうに笑う晴臣に対して、悟は肩を下げた。
本当に魔法をかけるなら、晴臣の病気を治すのに。治して、幸せにしたい。みんなに偽りなく笑えるように。
でも、無力だ。そんなものは夢のまた夢の世界。現実は、ただ傍にいることしか出来ていないのだ。
あまりにも残酷で、瞳が潤み、視界が今の気持ちを表すように歪んでいく。
「またそんな顔をして……部屋の中だったら、すぐにでも抱き締めてやりたいのに」
いつの間にか零れた悟の涙は、晴臣の袖が受けとめてくれていた。
「なら、抱き締めてください。晴臣様の望むままに……」
「……君の前では、俺は弱くなってしまうみたいだね」
一息つく音が聞こえたかと思うと、グッと強引に引き寄せられて、力のままに抱き締められる。強く、強く、痛いと思えるほどに。悟、と熱っぽく名前を呼ばれるとともに、悟の頭にあった手が項をそっと撫でて。悟の身体は静かに震える。
そして、その行動の先に、本当の晴臣の姿が見えた気がした。
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