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「ん……」
身体が重い。悟が瞼を開けると、カーテンは閉まっているが部屋は少し明るみを帯びていて、日が昇っているのだと理解する。
綺麗なシーツに、衣服もきちんと着せられていて。悟の記憶はというと、晴臣に項を噛まれてから曖昧になっていた。しかし、途切れ途切れの記憶はあまり良くないものであるということは確かだ。
「おはよ」
「っ! やっ……!」
すると、悟へ手が伸びてきて、そこからふんわりとフェロモンが香って。
悟は反射的にその手を払い除けて、ベッドの端まで逃げていた。ドッドッと鼓動が高鳴り、胸元をくしゃりと握る。そして、払い除けた手の主を見た瞬間、ハッと息を呑んだ。
「……あ、晴臣様。も、申し訳ございません……」
「どうして謝るの?」
「……」
晴臣は、いつものような雰囲気で苦笑している。動揺しているのは悟だった。
晴臣と番になったはずなのに、拒否をしてしまった。あれは驚きとかではなくて、完全に嫌気がさしていた。他の人であればまだ理解出来るのだが、どうして晴臣にあのような行動をとったのかわからない。
気づけば、悟の身体からは晴臣のフェロモンが漂っていて。どうしてだろう。それが受け入れられない。
そんな自分が嫌で、さらには徐々に吐き気が込み上げてきて口元を押さえると、晴臣は静かに口を開く。
「俺を責めないの?」
じっと悟を見つめる晴臣の瞳は、あまりにもまっすぐ突き刺していて。
「わ、私から……始まったこと、ですので」
悟は逃げるように視線を逸らす。
そうすれば、晴臣が何かを差し出してきた。それはプラスチック製のケースで、その中にピルが何錠か入っている。
「……これ飲んで」
「これは?」
「事後避妊薬」
「避妊? そんな、私はこのまま……!」
途端に晴臣が苦い顔をする。まるで、悟がそう言うとわかっていたように。
「悟、それは本当に君の意思?……違うよね。俺が言わせてるんだ」
「っ、そんなことはございません!」
悟はベッドを這いつくばって、晴臣へと縋った。
晴臣が悟の手を包む。それはもう壊れ物を扱うようなひどく優しい手つきで。だが、晴臣の顔はみるみると歪んでいくばかりだった。
「誤魔化しても駄目。震えてる。昨日もそうだった……怯えていたのに、俺は悟を無理やり抱いた。番だって……」
「お待ちください! 私は晴臣様と番になれて嬉しく思います!」
「俺だって嬉しいよ……幸せだ。けど、俺たちには早かったんだよ。こういう形で番になりたくなかった」
「あ……晴臣様……そんな……」
ひゅっと息を吸い込む。呼吸ってどうやってするんだっけ。胸が苦しくて、はくはくと口は酸素を求めているのに、上手く取り込めなくて。
崩れていく。晴臣を傷つけた。ずっと傷つけてばかりだ。どうして上手くいかないのだろう。どこから間違えたのだろう。自分がΩじゃなければ、こんな苦しい思いもしなかっただろうに。
ボロボロと流れていく涙を晴臣が拭ってくれる。それもやはり優しいものだった。
「ごめんね……怖がらせたね。悟は凄く頑張ってくれたのに、俺は……」
「ぁ……晴臣様、もう何も言わないで……」
悟は晴臣へ手を伸ばした。両頬を包むと、いまだに手が震えている。
それでも、愛してる。
そうやって見つめ合うと、自然とお互いに頬を寄せ合っていた。お互いの傷を舐め合うように擦り寄せれば、涙が溢れて止まらなかった。
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