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──落ち着いたら、一緒にお茶しようね。
そう言って晴臣は自室から出ていった。
パタン、とドアの閉まる音が聞こえた瞬間、悟の身体から一気に力が抜けていったような気がした。そして、やけに静かになった部屋に呆然とする。
その中でも、ふと時計が目に入ってきて、まだ使用人たちが働き始める前の時間だということがわかった。
それがわかった瞬間、悟にスイッチが入って、自分自身も身支度をしようと自室に戻ることにした。自室へ近づくにつれて足取りは速くなる。ついに自室へ着くと、悟は駆け込むように洗面所へ向かった。
洗面所には、ビジネスホテルにあるような簡易的なバスタブとトイレが一緒に備えつけられている。悟は熱い湯を出して、バスタブに湯を張り始めた。その間に衣服や下着を乱暴に脱ぎ捨てて、即刻バスタブに入ってしまう。カランからシャワーへ切り替えると、頭に水が降り注いで。だんだん温かいものになってきて、悟は身を丸めた。
ひく、といつの間にか嗚咽が響いていた。
晴臣は始終優しく接してくれたが、きっと幻滅しているに違いない。言葉を重ねる度に歪んでいく表情がなによりの証拠だ。
──こういう形で番になりたくなかった。
それに、こんなことまで言われてしまったら……。
ぱしゃん、と湯面が波打った。晴臣が好きすぎて、こんなにもつらい。でも、過ちを犯してしまったことは戻せなくて。その証の項にそっと触れると、じんと熱を帯びて悟の心は痛みを増した。
あれから身体を清めて、バトラー服に着替える。
昨晩、晴臣にマーキングされたフェロモンは少しマシになったかもしれないが、まだ完全には消えていない。悟は香水を手に取って、そこで手を止める。
嫌気がさすαのフェロモンとはいえども、これは晴臣のものだ。身体は消すように信号を出しているが、やはり躊躇ってしまうところもある。
悟は溜め息をついて、ある一点を見た。晴臣からもらった事後避妊薬のピルケースだ。飲んで、と渡した晴臣の表情は真剣なもので。突き刺さるような真っ直ぐな視線が、鮮明に思い出せる。
そうだ、もうこれ以上、晴臣に迷惑をかけるわけにはいかない。
シュッと振りかけると、フェロモンの匂いが和らいで安心する。そんな自分が憎く、情けない。
それから、悟は机の引き出しを開けて抑制剤を取り出す。念には念をだ。ピルを飲んで注射も打てば、いつもと変わらない生活に戻って気が楽になったような気がした。その勢いで事後避妊薬も手に取って。
「……これでいいんだよね」
自分の心に言い聞かせて、口に含み飲み込んだ。
そう、いつもと同じに戻るだけ。薬を飲んでいれば、憎いΩ性を出すことはほぼない。だから、今までの重荷も軽くなるはず。
今は、そう思うことしか出来なかった。
咲良は、朝早くから花の手入れをしていた。特に日にちが近づく晴臣の誕生日会に飾る花や贈る花は、いつも以上に念入りに手入れを励んでいる。
すると、隣に誰かがちょこんと座り込んで。眉を寄せながら視線を向けると、ふんわり微笑む悟がいた。最初に比べて雰囲気が晴臣と似てきている。
「おはようございます、逢見さん」
「ああ、悟か。おはよう。そういえば、誕生日会の花のことだが……」
「その前に、ご相談したいことがあるんです」
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