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咲良は大きく息を吐いて、ミントタブレットを口に運んだ。
「なんだ、もうその話に入るのか」
「……どういうことですか?」
何か知ってるような物言い。悟は嫌な予感がして、じわりと汗が出てくる。
しかし、咲良は分が悪そうに顔をしかめた。
「少し前まで晴臣がここに来てたんだが、様子がおかしかったからな」
「……晴臣様がこちらに?」
晴臣の名前を聞くと、ツキンと胸に痛みが走る。
晴臣は何のためにここへ来たのだろう。咲良へ何を話したのだろう。嫌な予感はますます増していく。
とにかく咲良の話し方からすれば、番の件は知っていそうだ。だが、そう悟が判断したところで、咲良はすぐさま訂正に入った。
「あー、そうは言っても晴臣から何も聞いていないからな。なんというか、もしかしたらお前が来るかもとか言い出すから。で、なんなんだ相談って」
「……薬の成分を強くして欲しいんです」
「なぜそんなことをしなければならない」
咲良が不審な顔をするのは当たり前だ。昨晩は薬の量を減らす話をしていたのだから。
悟は、襟を下げて項を見せる。
「……そうか、晴臣と番になったのか。なら、なおさら薬を強くする意味がわからない」
「晴臣様に、ご迷惑をかけたくないのです!」
ぽたり、と地面に水滴が落ちて色が変わる。
涙が枯れるという言葉をよく聞くが、それは嘘だと悟は思った。流しても流しても、流し足りなくて止めどころもない。グッと握り締める拳で胸の痛みを緩和してみるが、まるで意味もなさなくて。晴臣を想えば自然と溢れ出てくる。
「晴臣が迷惑だと……そう言ったのか?」
咲良はわかっている。晴臣はそんなことを言う人ではないということを。わかっていて、あえて聞いたのだ。
「……っ」
悟の瞳が揺らぐ。そして、少ししてから何も言わずに首を横へ振った。すると、そんな悟の頭を撫でた咲良がミントタブレットを差し出してくる。
悟は、しゅんと鼻を啜ってからそれを口に含んだ。
入れた瞬間、すっとミントの香りが鼻を抜けていく。咲良のイメージからして辛いものだと思っていたが、意外にもさっぱりとしていてほんのりフルーティーな甘みが口の中に広がった。それを噛まずに味わっていると、咲良が言い聞かせるように口を開く。
「抑制剤はな、少しでも強くすれば身体に大きく負担がかかる。それに、身体が追いつかなくなった時、薬の拒否反応を起こして、使いたくても使いものにならなくなるんだ。それに、一気に過剰摂取すれば死に至るケースも出ている」
「酷いものですよね。Ωにとっては必要なものなのに……」
そう言って悟は軽く笑って嘲た。だが、その笑いもすぐに引いていき、一息置いてから言い放った。
「でも、それでも構いません。Ωを隠せるのなら何でも。意地でも耐えてみせますよ」
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