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扉が全開になり、中にいる全員が晴臣と悟に注目した。
今日は無礼講。使用人たちはどんな身分であれ正礼装で身なりを整えていて、メイドたちも綺麗なドレスを身にまとっている。
「晴臣様、お誕生日おめでとうございまーす!」
パン、パン、とみんなで持っていたクラッカーが次々と弾けた。
「うわ、みんなで鳴らすと凄い音だね……」
耳を押さえた晴臣が悟を見ながら話してきて、お互いに笑い合う。そして、悟が中へどうぞ、と手を動かすと、晴臣は足を前に運んだ。
「ありがとう!」
太陽みたいな笑顔で、晴臣が自分の席へ向かっていく。悟は大広間の扉を閉めて、その姿を遠くから見守っていた。
会場はパーティー用の装飾と咲良の育てている花で彩られている。料理もシェフが腕を振る舞って、鮮やかな食材たちがテーブルに並べられていた。それをビュッフェ形式で楽しむ。晴臣もみんなのテーブルを回れるように、同じような様式をとっていた。
料理、酒を楽しむ者、晴臣との会話を楽しむ者。ここから見れば、人それぞれたくさんの形で楽しんでいる。そこにはすべて笑顔があり、悟は見ているだけでも十分幸せだった。
「はるおみ、しゃま!」
「あれ、美結ちゃん! 今日は凄く可愛いらしいお姫様の姿で来てくれたんだね」
それに、今回のパーティーには現在屋敷で働いている者に加えて、以前働いていた者も出来る限りの範囲内で招待した。
今、晴臣に話しかけているのは出産を機に辞めたメイドの娘だ。ピンクのドレスを着せられていて、まだおぼつかない言葉遣いと足取りはとても可愛らしい。
「これ、あげる!」
晴臣へ手渡したのは花の冠だった。母親と一緒に作ったのだろう。晴臣は美結を抱っこすると、冠が頭にかけられて。
「ありがとう。凄く嬉しいよ」
「だいしゅき!」
それから、ちゅうっと晴臣の頬へ美結の口づけがプレゼントされた。
「んーっ、可愛い! 美結ちゃん俺の子になりなよ! あ、それともお嫁さんになる?」
「まあ、晴臣様ったら」
それには母親も周りにいた者もくすくすと笑う。見守っていた悟も頬が緩むくらい愛らしい光景だった。
すると、一人の使用人が酒の入ったグラスを持って悟へ近づいてくる。
「悟さん、そこに立ってないで飲みましょうよ!」
「ああ、お気遣いありがとうございます。でも、俺はここで眺めてます。それだけでも楽しいですから」
晴臣の幸せそうな表情が見られればなんでも良かった。それが一番の目的なのだから。
そっと晴臣を見つめていると、晴臣がきょろきょろと何かを探し始める。そして、視線が合い晴臣が微笑んだので、探していたのは自分だったのだと理解した。
晴臣は唇をちょんちょんと人差し指で叩いていて。その直後に唇を一言ずつゆっくり動かして、悟に何か伝えようとしていた。
悟はそれを口に出して読み上げる。
「あ、り、が、と、う……」
伝わったのがわかったのか、晴臣がニッと笑った。
涙が込み上げてくる。この場ではそれは似合わないから我慢するが、鼻がツンと痛くなって切なくて。悟は晴臣に向かって、顔を横に振るのが精一杯だった。
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