アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
95
-
悟は、晴臣の部屋の前に立っていた。部屋の中では、医師が倒れた晴臣を診てくれている。
急いで医師を呼び晴臣を渡すと、一気に力が抜けてしまって今立っているのがやっとのことだった。血に濡れた服の着替えも、しっかりしてください、という声に従ってやったが、きちんと着れているのが不思議なくらいだ。
「悟! 晴臣は?」
悟の元へ駆けつけたのは咲良だった。悟は咲良の顔をちらりと見た後、再び扉へ視線を戻して顔を俯ける。
「……まだ、わかりません」
その悟の表情を見て、咲良は渋い顔をした。
「お前……知ってたな?」
「すみません……」
息を詰めた咲良が悟の胸ぐらを掴む。
「なぜ言わなかった!」
「晴臣様を想ってです……俺が知った時にはもう手遅れでした」
咲良から顔を背ける悟の表情は酷いものだった。向ける視線は虚ろで、生きた心地がしない。咲良は舌打ちをする。
すると、晴臣の部屋の扉が開き、そこから医師が出てきた。
「先生! 晴臣様は……っ!」
咲良より先に悟が動く。医師を見た瞬間、死んでいたような目が必死に医師へ訴えを起こしていた。
だが、答えは良くないもので。医師は静かに首を横に振った。
「そんな……」
──一緒にお茶なんていつでも出来るでしょ?
──貴方のそばにずっといさせて。
ふるり、と悟の身体が震える。立ちくらみがして、崩れ落ちそうになった身体を咲良がなんとか抱きとめてくれた。
「西園寺様、晴臣様が部屋にて待っております」
「……行ってこい、悟。最期まで晴臣のそばにいてやってくれ」
ぽん、と咲良が悟の肩を叩く。それで、ようやくしっかり立てるような気がした。
それから、悟は晴臣の部屋のドアノブを回す。まだ手は震えていてドアノブから手が滑りそうになったが、なんとか開けることが出来た。晴臣の元へ向かう足取りはとても重い。
「晴臣様」
「悟……情けない姿を見せちゃったね」
そう言われて、悟は顔を何度も横に振る。何も言えないのは、晴臣の姿を見ると苦しくて声が出ないからだ。
晴臣はベッドに腰かけていた。そうは言っても、背中に大きなクッションが置いてあり、そこにぐったりともたれかかっているだけで、顔色は相当悪そうだった。
その姿を見た悟は胸が痛くて仕方がない。
「おかしいな。本当に倒れるまで調子は良かったんだけど、急にガタが来ちゃったみたい」
力なく笑って、咳き込む晴臣。
「晴臣様、あまり喋らないほうが……!」
悟は晴臣に近寄って手を握った。その手はまだ温かい。それだけが今の希望の光だった。
「……いや、喋らせて。悟も先生から聞いたでしょ? もうこれで最後だから……出来るだけたくさん話させて」
最後。
聞きたくない言葉だ。しかし、こんな時でも晴臣は笑顔でいて。悟も辛いし、苦しい。だが、一番苦しいのは晴臣だ。なのに、どうしてそんな顔が出来るのだろう。
晴臣の病を知って、いずれこうなることはわかっていた。わかっていたはずだ。でも、どうして、どうして今なのだろう──。
心の中が整理出来ないほどにぐちゃぐちゃにされて、悟は瞳からボロボロと涙を溢れさす。
「晴臣様ぁ……っ」
「もう。泣くの早いってば……」
繋がった晴臣の手から、悟をあやすようにきゅっと力を込められた。しかし、その力の弱さに止めようとする涙も一層流れるばかりだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
96 / 314