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悟へ目を向けていた晴臣は、まっすぐ前を向いて眉を下げた
る。
「パーティーのこともごめん。みんなに心配かけたよね」
晴臣の病については悟以外知らなかった。それに、晴臣もそういう素振りをまったく見せなかった。だから、いきなり突きつけられた晴臣の病は、屋敷の者たちにとって衝撃的なものになっただろう。
泣き叫ぶメイドの声、悟へと縋る使用人。それだけ晴臣は慕われていた。
「晴臣様……最後だなんて言わないで……パーティーはまた元気になった時でも……っ」
まだ嘘だと信じたい。
大丈夫ですよね、またたくさん笑ってくれますよね。悟は晴臣に問いかける。
だが、晴臣は穏やかに笑うだけだった。
「ふふ。悟が俺の名前を呼ぶの、好き。今まで何回俺のことを呼んだのかなってぐらいに、たくさん呼んでくれたよね」
「……もっと呼んでいいですか?」
「……うん、呼んで」
悟は晴臣に擦り寄った。腕で優しく包み込むと、晴臣が悟の背中を撫でてくれる。
「晴臣様、晴臣様……」
それに甘えるように、晴臣を感じた。
この手も、この声も、温かさだったり、匂いだったり。もうすぐで、すべてが消えてしまう。
「……嘘だよ、悟。調子が良かったっていうの。流石に今日倒れるとは思ってなかったけど……本当はもうそろそろかなって薄々気づいてた。でも、悟が悲しむと思うと言えなかったよ。ごめんね……」
「謝らないでください……」
悟が顔を上げると、晴臣はもう笑っていなかった。
「ねえ、俺は悟に何を残せたのかな……こんなに泣かせてばかりで」
背にあった晴臣の手は悟の顔へ移動して、形を確かめるように撫でる。そして、瞳の近くまでいくと濡れている目尻をそっと拭った。
その手に悟の手が重なって。
「何をおっしゃいますか……申したではありませんか、貴方は私のすべてだと。そう思うくらい、たくさんのことを晴臣様から貰いました……だから嫌です、晴臣様。どこにも行かないで……」
「そう出来たらいいな……俺も悟のそばにいたいよ」
会話の内容を示すように指が絡む。
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