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晴臣は悟を見つめて、ふんわりと笑う。
「悟がΩの自分のことを好きになって、そのありのままの悟を愛してくれる人に出会えたらいいね」
その役目を果たせないのなら、どうかこの人を幸せにして欲しい。泣かないように、そばで支え続けていて欲しい。
「晴臣様……」
悟が晴臣の顔を覗くように身体を寄せた。瞳は再びキラキラと涙の膜が張っていて、つうっと筋を作って流れていく。
せっかく笑ってくれてたのに、また泣かせちゃったな、と晴臣は苦笑する。
「胸張って幸せですって言ってくれないと許さないから。俺を安心させてくれる?」
ぽたぽた、と悟の涙でシミになっていく晴臣の着物。拭っても拭っても一向に止まらない。
ああ、これは駄目だと思った晴臣は悟の身体を受け入れて、そっと頭を撫でてあげた。一撫ですれば、さらさらな黒髪が流れていく。それが晴臣の指の間を通り抜けていく心地良さと、何度も甘えてくる悟が愛おしくて、もっと触りたくなってしまった。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。……なんて悟へ幸せになれと言いながら引きずっている想いに自嘲して、晴臣は精一杯の笑みを作って悟へ向けた。
「可愛い悟、俺だけの悟……今までありがとう」
すると、悟の瞳が大きく開かれて、そこから大粒の雨が降ってくる。
「感謝を伝えたいのは、こちらのほうです……言葉に表しきれないほどに貴方へ感謝をしています。出会えて良かった、愛せて良かった」
「悟はいい子だよ。俺の一番愛してる人。全部伝えれて良かった……ふふ、そう思うと気が抜けちゃった」
そういうところが子供っぽく感じさせられて、悟の目が細くなる。
「少し休憩しようかな……また目が覚めたら話そうね。おはようって」
「はい」
悟は晴臣の頬とを擦り合わせて、いつものキスを送った。
「うん。幸せだ……」
幸せそうな顔をした晴臣の瞼が閉じていく。ゆっくりと閉じていく様子は、悟を目に焼きつけているようにも見えた。
静まり返った部屋。やけに静かで怖い。その中で悟は、晴臣の姿をまじまじと見つめていた。ぽた、と晴臣の頬に水滴が落ちて、伝い落ちていく。
「……っ、おやすみなさいませ、晴臣様……」
悟はそれを優しく拭いながら、最後に軽く触れるだけの口づけを交わしたのだった。
その後、晴臣はすべての力を出し尽くしたように、起きている時間が驚くほど少なくなっていった。起きていても咳き込んでいて、会話をするにも成り立たないもので。そこに晴臣の笑顔はなく苦しい姿で、悟は背筋が凍る思いだった。
そして、ついに三日目の朝、晴臣は眠ったまま静かに息を引き取った。苦しみ一つない穏やかな表情で、悟に見守られながら亡くなる姿は幸せそうだったという人もいる。
涙が零れ落ちたような感覚がした。
「はる、おみ……さま……」
愛おしい人の名前。瞳を開けると、視界が真っ白になって晴臣がそこにいるような気がした。しかし、それはスッと消えていき、本来見えてくる景色がようやく映し出される。
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