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「俺はこういうことしか出来ないが……サトル!? すまない、嫌なことを言ってしまったか? 泣かせたくはないんだ……」
ぽたり、ぽたり。
俯いた悟は繋がっている手を涙で濡らした。上手く言葉が出せなくて、何度も首を横に振りながらレナードの手を押し返す。
なんとかして、なにか言わないと。そう思い、嗚咽を漏らしつつ声を絞り出した。
「……優しく、しないで……こんな私に……どうして……っ」
「サトル……」
繋がれた手が解かれ、レナードの手は悟の頬へ向かった。涙に濡れ、赤みを増した頬。そこを包み込むように触れて、指で止まることを忘れてしまっている露を拭う。
「も……おやめくださいっ」
しかし、悟の瞳は崩壊したように、ぶわっと溢れだすだけで。見られたくないと悟はレナードの手を振り払おうとする。だから、頬をしっかりと掴んで、コツンと額を合わせた。
ばさっとした睫毛がしばたき、その奥の真ん丸とした悟の黒目はいまだに揺らいでいる。ああ、綺麗だ。どうかこの目に自分が映りますように。
「やめないよ。頼むから、逃げないでくれ……」
レナードはそう願いを込めて一旦瞼を伏せる。そして、瞼を開けると、再び腕に悟の身体を閉じ込めた。
怯えて震える悟の身体は、まるでなにも知らない子供のようだ。
「こ、怖い……貴方の手を取ってしまったら、私は貴方を壊してしまう」
「怖くない。サトルの中で俺はそんなに脆い人間なのか?」
「そうではありませんが……っ」
「なら、迷う必要はないだろう。好きになってくれとは言わない……せめて番としての役割を果たさせてくれ」
「レナード様……」
「俺の手を取れ、サトル。お前の目の前にいるのは誰だ……俺を信じろ。このレナード・ローウェルを……!」
悟の心にレナードの声が響く。
レナードの手を取ることが本当に正解なのか、まったくわからない。まだ恐れている気持ちのほうが強いのだ。レナードは高貴なαで、悟はΩであり、レナードに仕えるただの執事。このことを何度考えても、どこにもメリットなどあるとは到底思えない。
しかし、──。
──悟がΩの自分のことを好きになって、そのありのままの悟を愛してくれる人に出会えたらいいね。
いつの日かの晴臣の言葉がこだまする。
それが運命の番であるレナードであるなら。不安なことだらけだけど、少しはこの人を信じてみてもいいのだろうか。晴臣は許してくれるのだろうか。
悟は重たい一歩を踏みだすように、震えた手をレナードの背中へ伸ばしていく。そして、広い背中に辿り着くと、レナードへ縋るようにスーツが皺になるくらい強く握った。
「ありがとう。もう一人で抱え込む必要はないんだ……ハルオミの代わりになれるかはわからないが、俺はサトルのそばで支え続けよう。いつかお前が笑ってくれることを願って」
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