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目が覚めると、目の前に眠っている父の顔があった。すぅすぅと小さな寝息を立てている。
間違いなく、そこにいるのは父なのに、一つのベッドで裸で寝ているという状況のせいだろうか、なんとなく、知らない男と寝ている気分になった。
穏やかに上下する胸を撫でて、そのまま首筋、顎、唇まで指先を這わせた。俺はほんの少し体を起こして、父の薄い唇にキスをした。
「ん......?どうした、えらく可愛らしい起こし方だな」
まだ眠いのか、少し薄目を開けただけで俺を見た。寝起きの掠れた声が格好いいなんて思ってしまう。
「......なんで」
「何が」
少しばかり恥ずかしくて、でもそのぬくもりが心地よくて、俺は父の肩に頭をのせた。
「なんで、名前で呼ばせたの......」
「なんだ、そんなこと」
父は俺の頭を優しく撫でてくれる。大きな手が気持ちよくて、目を閉じた。
「名前で呼んだ方が恋人感が出るだろ」
「......父さんが恋人?」
「何、不満?」
「不満というか......」
「おまえこそ、昨日はあんなところで何してた」
昨日......と言われて思い出すのにしばらくかかった。極太のバイブの記憶が強すぎて忘れていた。
「夕飯を......龍弥と食べた」
「......ほう」
「......いろいろあって......これからしばらく、夕飯を俺が作って、一緒に食べる約束をした」
「おまえはほんとに弟に甘いな。それで、初日から自分の体が持ってないのか」
バカだな、と父は言った。自分でも、バカだと思う。
父が枕元の時計を取った。
「何時......?」
「7時半」
「仕事は?」
「今日は夕方から。おまえは?」
「俺も夕方から次のイベントの打合せ......って、あ」
「一緒に出るやつだな」
「うん」
時計を元の位置に戻して、布団をかけ直した。もう少し寝るのだろう。
「......雅」
「なに......?」
父の体温に温められて、俺もまた睡魔が襲ってきた頃、不意に名前を呼ばれた。
「俺にしとけよ」
「何が......」
「龍弥じゃなくて、俺にしとけ」
「何言って......」
仰ぎ見た父の顔があまりにも真剣な顔つきで、俺は言葉を失ってしまった。
「俺は、おまえの傷付いた顔が見たくないんだよ」
「......」
「おまえは昔から自分ばかりを犠牲にする。俺がおまえを甘やかして、いやってほど愛してやるから......」
俺は父の言葉を遮るようにキスをした。
嬉しかった。父が、自分のことを理解してくれていることが。自分のことを愛してると言ってくれたことが。けど。
「母さんしか愛してないくせに」
俺は知ってる。父が、母をどれほど愛しているか。母が死んだとき、龍弥以上に落ち込んでいたのを覚えている。俺たち子供がいる手前冷静を装っていたが、本当はこの世の終わりみたいな顔をして、俺は子供ながらに父が母の後を追うんじゃないかと本気で心配した。
あれから10年以上経っても、家にいる日は毎日欠かさず仏壇に線香を上げ、花が枯れることなく飾られていて、手を合わせる父の横顔はまるで母が生きてそこで話しかけているのを聞いているかのような穏やかな顔なのを、俺は知っている。
父が、緊縛師になって、男女問わず何百人も抱くような仕事をし始めたのは、きっと俺と同じような理由なのだ。
父も、現実を直視できずに、非現実的な世界で生きることでバランスを保っている。
もちろん、父が俺のことを息子として、家族として愛してくれているのは間違いないだろうけど......
「博之」
父のことを名前で呼んでみる。この不思議な感じは、けれども嫌いではない。
「二人きりの時はね......恋人になってあげる」
父とは、きっと傷の舐め合いをしているのだ。
とても不純で、不毛で、汚ない愛で、それでも切実に。
「愛してるよ、雅」
「............」
俺は、愛してるなんて言わないけど。代わりに触れるだけのキスをして、父の腕にしがみついて、再び目を閉じた。
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