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37【Tatsumi】
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会場を飛び出した俺は、その後どうやって帰ったのか記憶にないが、気づけば自室のベッドの上で横たわり、周りにはビールの空き缶が散らかっていた。
体を起こせばガンガンと酷い頭痛がした。一応まだ未成年だし、時々サークルの飲み会でサワーを飲むくらいでアルコールには慣れていないのに、部屋に転がる空き缶は10本もあった。
時刻は5時。外を見れば、朝、というわけではなさそうだ。日曜、夕方。幸いバイトは休みだったから良かったが、明日までにやらなきゃいけないレポートが残っていたように思う。
「ってぇ......」
人生初の二日酔いに頭を抱えていると、玄関先で物音がするのが聞こえた。
兄だろうか。
昨夜のことが蘇る。
怪しい光の中で妖艶に笑む兄の姿。あれは嘘だ。そう、きっと俺は夢を見ていたのに違いない。ほら、こんなに酒を飲んだから、きっと悪い夢を見たのだ。あんなのが、現実にあるわけないのだから。
階段を上ってくる音がする。そうして、俺の部屋に顔を見せてくれるはず。
『ただいま、龍弥』
俺の大好きな、優しい笑顔で。
『ダメじゃん、未成年。ほら、晩ごはんの支度しとくから、お風呂入っといで?』
優しい兄は、俺のことを軽く叱っても困ったように笑うだけで、今日も俺好みの夕飯を作ってくれるはず。
だけど現実は、足音は俺の部屋には届かず、隣の部屋のドアが閉まる音がした。
壁一枚向こうに、兄の気配を感じる。がさごそという物音。兄さん。兄さん、嘘だと言って。
『怖い夢でもみたの?大丈夫だよ、兄ちゃんがいるからね......』
遠い昔、母を亡くして間もなかった頃、しばしば悪夢にうなされた俺を、いつも兄さんが抱きしめてくれた。毎日、何もなくてもよく抱きしめてくれた母の代わりに、兄さんが俺を抱きしめてくれた。俺が寂しくならないように。兄さんだってまだ子供だったのに、いつも俺を守ってくれたよね。
それが、俺に指一本触れてこなくなったのはいつからだっただろう。それはきっと、兄が今の仕事を始めた頃からではなかったか。
パタン、とドアの閉まる音がして、俺は思わず部屋を飛び出した。
「兄さん......!」
兄さんは驚いた様子で目を見開いたが、すぐに俺から視線を逸らすと、手元にあった大きなキャリーケースを持った。
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