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「東雲さんの個展やってたギャラリーの前をたまたま通りがかった時、入り口から雅ちゃんが出てきて......もう、その瞬間ハート撃ち抜かれたよね」
「それって、顔しか見てなくない?」
「最初の最初はね。でも、写真の中の雅を見たら、目を離せなくなった。何がそんなに悲しいんだろうって気になって、取り憑かれたように写真集を見てたら、どんどん惹かれた」
俺には特別な表現力なんてない。特にあれは俺の初めての緊縛で、ただ、龍弥のことから解放されたい一心で無気力に撮られていただけのつもりだった。しかし、他人からは憂いた表情がいいだの何だのと評価され、気づけば俺も父と同じ世界に立っていた。彰吾も、そういうのを感じたのだろうか。
「こいつが心から笑ったら最高に綺麗だろうなって思った。それで、俺が絶対に笑わせてやるって決めた」
「......」
「だから、雅ちゃんに近づくために緊縛始めたけど、俺、ほんとは緊縛とかあんましたくないんだよね。むしろ、ベッタベタに甘やかしてドロドロに溶かしちゃうような普通のエッチがしたいくらい」
「......バカじゃないの、そんな理由で、こんな世界入ったの」
「そんな理由って言うけど、俺、今一番真面目に働いて真面目に生きてるぜ。それまでは、それはそれはろくでもない生き方してたし。夢も希望も何もなくて、女のヒモになったりケーサツのお世話になったり」
冷めたインスタントコーヒーは妙に酸っぱくて不味かった。それでも一気に飲み干して、空になったマグカップをシンクに持っていった。
立ち上がった彰吾も自分のマグカップを持ってきて、俺の分と一緒に洗ってくれる。
「俺が今幸せなのは、全部雅のおかげだよ。雅を笑顔にしたいっていうのは俺のエゴかもしんねぇけど......俺と一緒に幸せになってよ、雅ちゃん」
彰吾といると温かい気持ちになる。彰吾といると自然と笑える自分がいる。
弟を傷つけた俺が幸せになっていいのだろうか。
自分に自信はないけれど、少しずつ、甘えてみようと思った。
「ねぇ彰吾」
「ん?」
「普通のエッチ、する?」
そう言えば、まるで犬が尻尾振ってるみたいに笑うから、俺も一緒に笑ってしまった。
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