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蓬莱さんが泊まっていたホテルは所謂三ツ星ホテルというやつだった。ホテルと言えばラブホかカプセルホテルか、せいぜいビジネスホテルくらいしか泊まったことのない俺には、ホテルマンに出迎えられた時点でかなり挙動不審になっていたと思う。やたら広いロビーの高すぎる天井には豪華なシャンデリアが吊るされていて、床の絨毯は足が沈みそうなほどフカフカで、見る人みんな、高級そうなスーツやフォーマルな格好をしていて、いつものTシャツとボロボロのデニムに汚れたスニーカーで来てしまった自分の場違い感に居たたまれなくなった。
雅も、普段着のカットソーにパンツといういつもと変わらないラフな格好をしていたが、場馴れしているのか臆する風もない。むしろ、どれほど砕けた格好をしていても豪華な背景にぼやけることなく、その美しさに似合ってさえいるのだから、やっぱり雅は美しさは尋常じゃないと思った。
蓬莱さんがいる部屋の前まで来て、ベルを鳴らす。最上階の廊下はより一層フカフカしていて、俺は雅の後ろに不安定に立ちすくんでいた。
「......なんでおまえが一緒なの」
出てきた蓬莱さんは、隠すことなく心底嫌そうな顔をして俺を見た。なのに雅はけろっとしていて、蓬莱さんの首に腕を回して抱きついて、俺なんか聞いたこともないような猫なで声を出した。
「ごめんなさい、約束破っちゃった」
「俺だけだと不満だったの?」
「そういうわけじゃないけど......怒った?」
「怒れるわけないよね......こんな可愛い子」
「お仕置きいっぱいしていいから......ね?」
目の前でこれ見よがしにキスをする二人。とりあえず、いくらスウィートルームのフロアで人気は少ないとはいっても、せめてドアを閉めてからやってほしい。
「ほんと堪らんなぁ雅くんは......まぁでも、とりあえずランチでもしよう。適当にルームサービスを頼んでおいたよ」
師匠は師匠で、こっちも見たことないくらい甘い顔をしていて、もはや俺なんて眼中にないんじゃないかと思うほど、弟子を視界の端にさえ写すことなく、雅の腰を抱いて部屋の奥へと進んでいった。
「わあ、すごい。俺の好きなものばっかり」
「シャンパンも、このホテルは良いのが揃っててね」
俺の家の何倍もある広さの部屋は周囲が全部ガラス張りで、都内が一望できた。その窓際のテーブルには、俺が見たこともないようなご馳走が沢山並んでいる。雅の腰を抱いたまま二つのグラスにシャンパンを注ぐと、二人で勝手に乾杯している。
「あのー......俺は?」
「おまえは招かれざる客だ、水でも飲んどけ」
そう、こういう人なのだ、蓬莱さんは。バイトを辞めて師事した俺に寝床と飯は与えてくれたけど、それはそれは扱き使われたし、常人なら精神を病むんじゃないかというくらいの暴言を普通に吐く人なのだ。
「彰吾」
沈み込みそうに大きなソファに腰を抱かれながら座る雅が、蓬莱さんに向けるのと同じ甘い声で俺を呼び、手招きした。
「何」
数歩近づけばぐいっと腕を引かれて、甘すぎるキスをしてきた。ちゅ......とリップ音を響かせて離れた後には、仄かにアルコールの香りがする。
「今は味見だけね」
「ああ嫌だ嫌だ。これだから彰吾なんか呼びたくなかったんだよ。雅くんは彰吾に甘いんだから」
「あはは......でも、蓬莱さんだって彰吾のこと好きなくせに」
「馬鹿言わないでよ、俺はバイだけど、彰吾みたいなゴツいやつは射程外だよ」
雅は見た目に反して酒には弱い。家でもほとんど飲んでるところを見たことないし、付き合いで少し飲んでもすぐ赤くなっていた。俺は二人とは反対側のスツールに腰かけて、水を飲みながらやけくそで飯を食べていた。どんどん酔っ払っていく雅は一層蓬莱さんに甘えるように抱きつき、口を開けて食べさせてもらっていた。アルコールで赤みの差した肌に潤んだ瞳と濡れた唇は極悪なほどエロくて、絶対今度二人でいるとき家で酒を飲ませようと思った。
「んっ......ぁ、だめ、蓬莱さん」
外の景色を見ながら旨い飯を食べていたら、向かいから悩ましい声が聞こえてきて見てみれば、蓬莱さんが雅に生ハムメロンを食べさせながら、口の端から垂れて溢れた果汁を舐め取っていた。
感度もいつにも増して上がっているのか、雅の股間が僅かに反応している。そこを蓬莱さんがやわやわと撫でた。
「だめ......ごめんなさい、準備してない」
「いけない子だな、俺と会うときは準備しておく約束だろ?」
「シャワー、すぐに浴びてくるから」
「まぁ、雅くんにならおあずけされるのも悪くないけどね」
雅にはとことん甘いらしい師匠に、俺は思わず顔をしかめてしまう。
「酒飲んでるのに大丈夫か?」
ふわふわとした足取りでバスルームに向かう雅がふと心配になって声を掛ければ、毒々しいほど鮮やかににっこり笑って、俺の顔に息を吹き掛けた。
「自分の限界くらい知ってる。そんな飲んでないよ」
雅の呼気は確かにアルコール臭さよりもフルーツの甘ったるい香りの方がきついくらいだった。その唇に食らいつきたくなったけれど、雅はするりとすり抜けると、さっさとバスルームに消えてしまった。
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