アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
77
-
冗談、というわけではなさそうだった。
愛してる、と言われることはよくあったけれど、俺はそれを全て行為の最中の戯言だと思って受け取っていた。同じように愛してると返しても、だからといって恋人関係を迫られたことなんて一度もない。
蓬莱さんのことは好きだった。セックスの最中なら、それこそ本当に愛してもいた。そしてそれは蓬莱さんも同じだと思っていた。けど、実際は、俺が思っていた以上に......
「俺と結婚して......絶対にきみを悲しませないと誓うよ」
恭しく、手の甲にキスをされた。
「俺の全財産をきみにあげる。他の誰かを想っているままでもいい。他の誰かとセックスをしたっていい。ただ、残りの人生、隣にいてくれないか」
真っ直ぐな瞳で射抜かれて、目をそらすことができなかった。
「ほうらい、さん......」
胸がドキドキと早鐘を打つようで、息が苦しくて声が上ずってしまった。
「こんなジジイより、何も持たない若い彰吾の方がいい?」
「ちが......っ」
そんなわけじゃ、ない。そういうわけじゃない。けれど、突然のプロポーズに、戸惑ってしまってうまく言葉が出てこなかった。
「なんで、俺......?」
蓬莱さんくらいなら、60歳だろうとよりどりみどりだろうのに。それに、蓬莱さんはこれまで誰とも結婚しなかったどころか、恋人さえいたという話を聞いたことがない。セックスだけの関係ならごまんといるし、誰かに依存したり依存されたりというのを嫌っていると聞いたことがある。
「どうしてかな......自分でも、誰かに指輪を送る日が来るとは思わなかったけど......」
するり、と頬を撫でられた。俺より温かいその手は、触れられる度にいつも安心した。
「愛してる。身も世もなく、誰か一人をこんなに愛したのは、60年も生きてきたのに初めてなんだ。きみを手に入れられるなら何も惜しくない。きみが望むもの全てをあげる」
俺の、どこにそんな価値があるのだろう。
人より少し、見目が良いという自覚はある。中性的な顔立ちで、男に受ける認識もあって、それでいろんな男を誑かしてもきた。けれどそれは全部非現実的なおとぎ話の世界の中であって、フェティッシュイベントの延長だった。それがわからない人のはずはない。それでも俺を愛してると言うのは、何故なのだろう。彰吾も、蓬莱さんも、いったい俺なんかのどこが良いと言ってくれているのだろう。
「......俺なんかに、こんな高価なもの、受けとる価値ありません」
「これだって安いくらいだよ......雅くんは、どんな宝石よりも美しい。顔も、体も、そして心も」
「俺は、俺は......」
「愛してるよ、雅......人生で、こんなにも誰かを愛せたことが、俺はとても嬉しい」
「蓬莱さん......っ」
「きみを愛せただけで、きみに出会えただけで十分すぎるほどに幸せだけど......願わくば、俺の隣にいてほしいんだ」
俯く俺を下から見上げてくる瞳は優しくて、とてもサディスト緊縛師の顔ではなかった。
けれど、俺は応えることができない。
彰吾とは、軽いノリで付き合い出してしまったけれど、蓬莱さんの覚悟には、とてもそんな風には応えられなかった。
「ごめんなさい、蓬莱さん、ごめんなさい......っ」
こんなに愛してくれているのに、俺の心の中にはいまだに龍弥が存在し続けていて。
「ごめんなさい......っ」
申し訳なさと、切なさに、涙が溢れた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
77 / 652