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あの日、完全に意識が落ちるまで抱かれ、次に目覚めた時には蓬莱さんの姿はなかった。広いベッドの上には彰吾がいて、蓬莱さんは先に名古屋へ帰ってしまったと言った。
昼過ぎに二人で彰吾の狭い家に帰ってきて上着を脱いだ時に、ポケットに何か入っていることに気づいた。取り出してみれば、それは指輪の入った小さな箱で、それとは別に紙切れも入っていた。
『俺が持っていても仕方ないから、持って帰って。煮るなり焼くなり雅くんの好きにしていいから。愛してる』
達筆な字で、そう書かれていた。
多分、何十万じゃ済まない代物だと思う。そんなもの、簡単にどうこうできやしないし......愛してると書かれたメモ一枚だって、俺には捨てられない。
俺は箱とメモを、彰吾の部屋に持ち込んだキャリーバッグの奥にそっとしまった。もし、今度蓬莱さんと仕事することがあれば、その時だけは付けよう、そう思った。そしてスマホを取り出し、蓬莱さんのアドレスを引っ張り出すと、短い文を打った。
『ありがとうございました。また会えるの、楽しみにしてます』
「雅ちゃん、俺、これから仕事行くけど」
彰吾が荷物を持って声をかけてきた。
「帰り、何時?」
「明日の朝ー」
どうやら今日は居酒屋のバイトらしい。
「明日、俺打ち合わせ......帰ってくる頃はまだいるだろうけど」
「あ、もしかしてアイリスの?」
「うん」
喋りながら、玄関まで見送る。
「彰吾」
「ん......どしたの、寂しい?」
そんなわけないだろ、と言いたかったけど、何も言えずに目を伏せたら、額にひとつキスされた。
「明日は夜は帰るから、晩飯作ってよ」
「......ん」
「雅ちゃん、ずっと俺の側にいてくれる?」
ずっと側にいさせてほしいのは、俺の方。本当は、一人でいるのが嫌いで仕方ない。でも素直になれなくて、彰吾のほっぺたに触れるだけのキスをして、いってらっしゃいと言う。でも、彰吾はそれだけで嬉しそうに笑った。
「いってきます。雅ちゃん、大好きよ」
おどけた感じで最後に投げキッスなんかを寄越してくる姿に、思わず笑ってしまう。
一人になった部屋で、俺は疲れもあってベッドに寝転んだ。放り出されていたスマホを見てみるが、蓬莱さんからの返事はない。
寝返りを打って枕に顔を埋めると、彰吾の匂いがふわりと漂って、妙な安心感にすぐに俺は夢の世界に引きずり込まれていった。
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