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#2
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「良いなぁ、僕も早く楽しんでみたいんだけど、まだちょっと分かんないんだよね」
「…その内、急に分かる」
「ふぅん。そっか…さて、今日の献立は何かな」
特別室の重厚な扉を開くと、既にリコが席について待っていた。
「あ、来た。おそい、よ。冷め、ちゃう」
「ごめんごめん」
「…エネが寝坊した」
「あ、ちょ、言わないでよノイ」
「エネ、これで、ぇと、四回、め?」
「リコ、確認してんのか責めてんのか分かんねぇよ」
「そ、っか。ふふ」
リコがシセルに指摘されて、頬を染めながら嬉しそうにはにかんだ。
きっと、シセルに話しかけて貰えたというだけで嬉しいんだろう。
しかしリコのこんな姿を見かける度に、不思議に思う。だってあまり態度には出さないかもしれないけど、僕と、エネと、それからこの館で働いている少年たちの中で一番シセルに執着しているのはリコだ。出会ったのも一番最初だし、なんだかんだとシセルの事を一番よく知っている、或いは知ろうとしているのもリコだと断言できる。
「ノイ?どう、したの?座らない、の?」
「…ちょっと、考え事してて。気にしないで」
僕はテーブルについて、なおもリコのきょとんとした無垢な表情を見据える。
つまるところリコには、独占欲というものが感じられない。
確かに、僕やエネがシセルと遊んでいるとずるいと言って参加してくるが、それはあくまでも仲間外れにされたことを拗ねているような、そんな雰囲気がある。でも、さっきみたいに、シセルに対して特別な感情を持っている事は明らかだ。そういえば、僕がシセルと出会う前にはストーカーじ
みた事をしていたと聞いたこともあるけど、そうなるとますます…
「ノイ、ノーイ?」
「…何?」
「何って、きいてる?僕の話」
「…んん」
小さく切ったステーキを口に運びながら緩く首を振ると、リコの隣に座ったエネが少し大げさにため息を吐いた。
「もう、ちゃんと聞いててよ。もしかして今日シセルと一緒に寝れるからって、そのことについて色々考えてるの?」
「…んん」
少しだけ考えて、適当にはぐらかすことにした。
「んー…まあ、いいや。だからね、最近この辺物騒なのが増えたみたいだから、その対策はどうしようかって話。うちは常連に結構大物が多いから、それを知ってるような連中はまず腕力に訴えてこないとは思うけど、流れの客とか、よそ者が来ないとも限らないでしょ?」
「あ、は、はい、はいっ」
リコが大きな目をキラキラさせて手を挙げる。
「はい、リコ君」
「ボディ、ガードマン。とか、ぇと、働いて、もら、う」
「あー、警備を雇う、ね。外部から?」
「うん」
「その警備がうちのなかで幅を利かせだしたら?」
「はばを、きかせる?はば?きく?」
「あーんと、つまり、うちってほら、言っちゃえば子供みたいなのばっかりなわけじゃん?それを知った警備の連中が、なんだ、ガキじゃねぇかって偉そうにしたりとか、暴力を振るってきたりとかしたら?」
「え、あ、んと、んと、あっ、ノイ、が、やっつける」
「…無理」
「同意見。ノイはさ、力は桁外れだけど、頑丈な訳じゃないから。相手が複数だとアウトだと思うよ」
「あぅ、そ、そっか」
個人的には他の子たちが非力なだけだと思うのだけれど、前にそれを言ったら『自分より力の強い大人連れてこれたら納得するよ』とエネに言われて、結局見つからなかった。
「あ、じゃあはい」
「お、シセル?どしたの珍しい」
「馬鹿。いつもはテメェらが隣だからだよ。一応俺の身の安全にも関わるしな」
「もーう、可愛くないな」
「…ふふ」
「あ、あ、ノイ、うれし、そう」
「なんかズルいなぁ。ま、いいや、それで?」
「さっきの警備に近いけど、用心棒ってのは?」
「用心棒?いや本当に警備とおんなじじゃん。何が違うの」
「昔の話だからまだあるかは知らねぇけど、隣の街との境目ぐらいの所に、用心棒の斡旋所みたいな会社があってな。ご用命なら一人から数百人規模まで、書類だけ見て選ぶもよし、会社に任せて選んでもらうもよし、勿論、面談をして契約を取り付けることもできる」
「成程ね。そこで僕ら自身で吟味して、専属契約を結べばリスクを最小限に抑えられると」
「まあ、良いのが居ればな」
「…シセル」
「ん?」
「…結局、腕自慢が来るの?」
店の中で幅を利かせだしたら、別に一人だろうが百人だろうが同じくらい不愉快だ。そう考えたら、エネは少し納得したみたいだけど、僕は、やっぱり釈然としない。
そんな僕の考えを読み取ってくれたのか、シセルは少しだけ柔らかく言った。
「腕自慢っつっても、何っつうか、毛むくじゃらのおっさんばっかりじゃねぇぞ?
俺が仕事探しに行ったときは女も居たし、子供と見間違うくらいちっこいのもいたしな」
「…女は嫌い」
「なん、で、嫌いなの?」
「汚いから」
久しぶりに感情が先走って、無意識の内に即答すると妙な沈黙が降って湧いた。
「…ま、まあ、とりあえずはちょっと調べてみようよ。僕だって客取らない奴をシセル以外店の中に入れたくはないけどさ、このままって訳にもいかないんだし、ね?」
エネが、大きな瞳を何故か潤ませているリコの頭を撫でながら、僕に言う。
「…分かった。それと、リコ」
「えぅ」
心なしか、隣に居るエネに縋るように手を彷徨わせるリコを見て、口を開いた。
「…後で、リンゴ剥いてあげる」
「り、んご?…あ、う、うんっ。あり、がとう。ノイ、好き」
ふにゃりと笑うリコを見て、どこかほっとしている自分がいるのには、気が付かないふりをして、僕は残っているステーキに狙いを定めた。
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