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#5(第四話 お仕舞い)
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「…あれ?二人ともまだ居たの」
たっぷりと時間をかけて絶頂を迎えた僕は、その心地よさを纏ったままシャワーを浴びようと、ベッドからシセルを引きずり降ろして後始末にかかるところだった。
四本の腕が、シセルへと伸びる。
「あ、あの、ノイさんは、寝ていいよ、としか言わなかったんで、いても、良いのかなって」
「…別に、良いけど。ずっと待ってたの?後始末手伝ってくれようとして」
シセルを三人で浴槽に入れて、既に力の入っていない身体を清めながらそう尋ねると、ケイはともかく、エルまで難しい表情で黙りこくった。
「…言いたくないなら、良いよ。もう聞かないから、二度と」
敢えて視線を少し下げ、興味を失った様に振る舞えば、慌てたようにケイが口を開いた。
「みっ、見たく、て、その、ノイさんが、してる所」
予想外、と言えば予想外なその答えは、ただ、納得のいくものではあった。
「…そっか。そういえば見た事無いんだね」
「はい」
「…何で見たかったの?」
シセルの後孔から、葡萄酒と精液が混ざり、ピンク色になった液体が軽く泡立ちながら出てくる。デザートみたいで、これもやっぱり、綺麗だ。
「それは…み、見たかった、からです」
「…そっか。二人とも、僕としたいの?」
シセルの身体から視線をあげて二人を見つめると、思いのほか落ち着いた様子で、エルから回答があった。
「…見るまでは、はい。したかったです。でも、何って言うか。今は、ぇと」
「…したくない?」
「あ、いやあの、したくないって言うか、しちゃ、いけないって言うか」
「すっげぇ綺麗だったです」
何だかごにょごにょとエルにしては歯切れが悪くて、僕が少しずつ苛つき始めたのを察したのか、あるいは偶然か、ケイが引き継いだ。
「上手く言えてるか、わかんないですけど。シセルさんも、何か、とろっとろに表情が変わってって、ノイさんは、それをこう、完全にコントロールしてるって言うか、無駄がないって言うか、こういうセックスもあるんだって、正直、ビビりました。
酒を後ろから入れたら、シセルさんが凄い暴れてたからエスエムっぽい事すんのかな、とか最初は思ったんですけど、何かとにかく、綺麗でした」
ちらりと視線をよこして、エルの意見を伺う。
「ぼ、僕も、同意見です。それで、そもそも相手してもらえるわけないって分かってますけど、それでも、今の僕らじゃノイさんに釣り合わないって言うか、自分が恥ずかしくて」
「…ん、もういい。よくわかったよ」
シセルの身体は一通り清め終わった。僕は二人にタオルで身体を拭き上げるよう指示してから、グラスに葡萄酒を注ぎ、唇を湿らせる。
「…綺麗な花には毒もある」
「え?」
「…痛みは、慣れるよ。すぐにね」
頭に、ふとシセルに初めて会った時の事がよぎる。サディストというよりは、単に自分より弱いものを苛めるのが好きなだけだったあの時の客は、僕の反応が思っていたのと違い、不満に感じる前に怯えてしまって、それを隠そうと虚勢を張り、僕を殴った。
そこまでならまだ穏便に済んだだろうが、大声で社長を呼んだものだから血祭りにあげられ、僕は初めて、シセルに出会い、名前を聞かれ、教え、知り、そして生まれて初めて、人と手を繋いだ。
一方的に掴まれるのではなくて、手のひらを合わせて。
「…昔話をしようか。それが終わるまで」
アルコールがようやく回って来たのか、心地よい気分が満ちていって、僕は段々饒舌になる。
「…昔々。君たちがまだここに来る前の話。その時の商品は、僕、エネ、そしてリコの三人だった。一番ひどい扱いを受けていたのは誰だと思う?」
ケイが、シセルの背中を拭き上げながら眉を捻り、答えを返す。
「リコさん、ですかね?」
「…うん。そうだった。その次が僕、一番世渡りが上手いのはその時からエネだった」
「それも何か、分かる気がします」
「…じゃあ、一番恵まれていたのは誰だと思う?」
「え?…普通に、エネさんじゃ、無いんですか?」
「…痛みはね、慣れるんだって」
今でも、あの時のリコの表情を思い出すと、微かに肌が粟立つ。それほどまでに、いや恐らく今まで生きてきた中で唯一、僕は、本物の恐怖を感じた。
「…一度、プレイ中に間違えて部屋に入ったことが有る。その時の担当はリコだった」
シセルは、既に磨き上げられていて、最後の仕上げに髪の毛にドライヤーを当てるのは、二人を制して僕がタオルと髪の毛を抱いた。
「…その時にはもう血だらけだった。リコの髪の毛が」
緩く梳くようにシセルの髪を撫でていくと、はらはらと指の間を滑っていく。
「今のルールでも、過剰な怪我はご法度ですよね、痣程度ならまだしも。って事は、ルール違反のお客だったんですか?」
「…ふふ」
どうしたんだろうか。
つい僕が笑いを零すと、両サイドに立っていた二人が凍りついたように固まった。
気にせず続ける。
「…それが普通だったんだ。リコのお客は特殊で、僕も知らなかった。その日はサンドバッグみたいに殴られてたんだって。客はというと、殴りながら射精する」
一通り乾ききったので、汚れていない方のベッドにシセルを横たえ、頭を僕の膝に乗せる。頬をゆったりと撫でてあげると、火照った身体に冷たいのが心地いいのか、すり寄って来た。
「そ、れは…え、でも」
「…リコはね。痛いのは平気なんだ。次の日になれば、忘れるんだって」
言おうとしていることが分かったので、先を制して話を続ける。
「…でも、気持ちい事は忘れられない。ヤバい薬を使われたことが何度かあって、その時の事は、異常によく覚えてる。相手の人相、年齢、体つきから、話し方、言われた言葉、匂い、射精の回数、精液の量、味、支払った金額、かかった時間。全部、何度聞いても全く同じ答えが返ってくるから、多分本気で覚えてる」
シセルの浅かった吐息が、次第に深い寝息へと変わっていく。
「ノイさんは────」
「…綺麗な花には棘があるけど、あんなのはただの飾り。傷跡にもならない掠り傷と、ほんの少しの嫌な思い出を残すだけ。死ぬほど強い、毒じゃないと。気持ちい気持ちい、デザートみたいに甘い毒じゃないと、意味がない。違う?」
ふと視線をやると、二人とも視線を逸らして、小さな喉仏が上下に動いたのが見えた。
「…もしかして、喉、乾いて無い?」
「え?あ、まあ、少しだけ」
「…ふふ、少ししか飲んでないから大丈夫だと思うけど、後で、ミルクを飲んだらいい」
怪訝そうな顔をしたケイとエルだったが、数秒後、エルがはっとしたような顔をして、部屋の隅に置いてある空になった葡萄酒のボトルを見、直ぐにケイの腕をひっつかんだ。
「失礼します。おやすみなさい、ノイさん」
「え?あ、おい待てよ!すいませんっ、ノイさんおやすみなさいっ」
ばたばたと駆けていく足音と共に、ゆっくりと締まるドアの蝶番が軋む音、それに重なって微かに、二人の少年が自分たちの為に用意されたのではない薬を飲んでしまったことに対する、焦り、そして恐怖が、音にならない声になって、響いてくる気がした。
「…今日は随分早く落ちたね。やっぱり他の子に相手をさせるのは数を控えよう」
ノイはそう独り言ちて、自分とシセルを布団でつつみ、そして、おもむろにシセルの後孔に指を入れる。その中がまだイき続けているかの如く痙攣しているのを確認すると、小さく笑って、そして静かに、夢の世界へと沈んでいった。
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