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#8
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「…だね」
キッドの説明を聞いて、ふと、思ったことを口に出した。
「なん、か、書いた、人、と、考えた人、が、いた、みたい、だね」
「うん、僕もそう思う。もっと言えば、多分このリリーって客の背後に、誰かいる。それも恐らくそれなりに慎重で、隠すべき事情がある人物。加えて最後の注文プランから思うに、資金も潤沢だ。最初の段階から金を使わせなかったのは、目立つのを避けたんだろう」
「となると、この客は何かの偵察で来ていた、という風に考えるのが自然でしょうか」
「…重要なのは、何故、来なくなったか」
「順当に考えれば確認すべき箇所を確認したから、と言う事になりますが」
「でも部屋以外を客が一人で出歩いてれば、誰かしらが声を掛けるよ。こんな場所だし、個人情報は入店記録だけでも宝石並みに貴重だ。その位の指導は、させてるはずだよ」
エネが肩眉を上げてキッドに視線を投げる。
キッドはそれを正面から受け止めて、何故か僕の方を向いた。
「分かっています。ですから、僕に相談した子がいたんです。
その時の報告としては、どうもこのリリーと言う客が部屋から出たいと暗に要求するような言動を多々取ったらしくて、ただ、担当についていた子が少し強めに言い含めると素直に諦めてくれたそうです」
「つまり、顧客の情報については漏れていないと言い切れるんだね?」
「はい、それに関しては断言します」
「…プレイ自体は、どうだった?」
「詳しくは聞いてませんが、入れなかったそうです。ただ、部屋の豪華さや、その時担当に付いていた子が割と人懐っこい子達だったので、少し気圧されたというか、終始おどおどと落ち着きが無くて、緊張したんだろうと言っていました」
「いれなかったんなら、何したの?」
「あ、あ、それ、は、聞いてる、よ。ん、とね、抜きっこした、って、言ってた」
「…リコが、見たって言うのは?」
「んと、あのほら、受付、のね、片っぽだけ鏡の窓から、帰るところ、を、一応、見た」
「どんな人だった?」
「ぇっと、服が、ね、綺麗で、髪は、エネみたい、に、黒く、て。身長、は、僕とおんな、じ、くらい、かな」
「…服が綺麗って、つまり?」
僕は一瞬考えたけど、言葉にするのが難しかったので、立ち上がり、部屋の隅に置いてあったベッドから、シーツを引きはがした。
「リコ?」
「ん、とね、こう、こんな感じ、で、身体に巻いてね、それが青っぽい、綺麗な布で。で、ぇと、んと」
剥がしたシーツを羽織る様にして、身体に巻き付け説明を続けようとしたら、当たり前だけど腕が出なくって、続けて説明をするのが難しくなった。
すると、ノイが何かに気付いたように立ち上がって、クローゼットの中からネクタイを一本取りだすと、僕の方へと歩み寄って来た。
「…もしかしてこんな風に、締めてた?」
ノイは持って来たネクタイを僕の腰の、少し上のあたりに巻き付けて、おへその前でぎゅっぎゅと締めて見せた。
「あっ、うん、うん、そう。その、紐がね、真っ白で、ちょっと、金色の、ね、模様が、はいって、て、綺麗だった、と、思う」
「…成程ね」
言いながら僕の背後に回ったノイが、僕の肩に手を添えて前に出るよう促すので、僕がちょこちょこと机に歩み寄ると、背後から声が聞こえた。
「…リコが見たのは、着物っていう服だよ。珍しい服装だけどね、これを普段着にしてる有名人を知ってる。リリーはきっと、その部下だろうね」
「────どうだったよ、話し合い」
その日の夜、ベッドの端に座ってシセルに髪を拭いてもらい、垂らした足をアリルに揉んでもらって気持ちよくなっていると、そう聞かれた。
「ん、んんと、難し、かった」
「ちゃんと参加できてんのか?」
「それ、は、だいじょぶ、ノイ、と、エネは、ね、優しい、から、僕が、話すの、ちゃんと、きいてくれ、る、から」
「…ん、そうか…さて、そろそろ乾いたか?」
そんな声が聞こえたので、僕は背筋を伸ばすようにシセルに凭れて、首筋に顔を擦り付けた。
「まだ、濡れてる、もん」
「ったく。じゃあもう少しだけな」
「んぇ、へへ、ゃった」
嬉しくて、少しくすぐったいその気持ちに満たされて笑うと、足元からも聞きやすい、綺麗な声が聞こえてくる。
「リコさんって、シセルさんと一番仲が良いですよね」
僕とシセルの間に入った声だったけど、その内容がとても気になるものだったので、僕はアリルに訊き返した。
「そう、見える、の?」
アリルは、昼間見た綺麗な目を無邪気にこちらに向けて、手の動きを緩めずに口を開いた。
「はい。ノイさんは無口だし、たまにシセルさん引き摺って行ったりしてるの見ますから、仲が良さそうって感じじゃないし、エネさんはエネさんで、シセルさんと言い合ったりしてたりするので、うーん、遠慮は、無いですけど…。
で、リコさんといる時だけは、シセルさんがリコさん抱っこしてたり、こうやって髪の毛拭いたりしてるし、何か、仲が良いのかなって、そう見えます」
「ん、そっか…」
僕はシセルを見る、シセルは僕を見て、少しだけ考える様に手の動きを緩めた。
「…まあ、あの二人がおっかねぇのは確かだけどな」
「…しせ、る」
「あん?」
「かみの、毛、ありがと、ね。アリル、と、片付け、してくる、から」
「ああ、分かった」
「僕一人でも」「手伝う、から、いいの」
シセルに見えない様に俯いて、アリルへ笑顔を消した視線を向けると、湿ったタオルをシセルから受け取ったアリルの腕が、微かに震えていた。
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