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旅の8
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リーダー格らしい年長の少年に頼んで、騎士団の方々を呼んで来て貰った。
ひったくりの常習犯らしく、騎士団って聞いてすっごくイヤそうだったけど、この男たちを放置できないって説得したら、嫌々ながらに行ってくれた。
「アルト=カリバンの連れ合いのレイ=ハルバードが子供をさらおうとする賊を捕まえた」
こんな風に伝言を頼んだんだけど、うまく行ったみたい。すんなりと騎士様方が、ここまで来てくれて助かった。
旦那様の名前を使うことにはちょっと抵抗があったけど、オレはここを動けないんだし仕方ない。
旦那様も、オレのこと探してくれてたんだって。
「レイ! 心配したぞ!」
大声で怒鳴られ、叱りながらぎゅうっと抱き締めてくれた。
けど、素直に身を預けて謝ることはできなかった。旦那様の制服から、ぷんと香水のニオイがしたからだ。
ひったくりとさっきの騒ぎとですっかり忘れてた、女の人たちのことが瞬時に脳裏によみがえる。
あの人たちに愛想良くはしてなかったし、むしろ「失せろ」って突き放してはいたけど、それでもイヤなものはイヤだ。
騎士団の制服を着てる以上、邪魔だからってだけで都民を乱暴には扱えない。それは分かるし、理解しなきゃいけないと思うけど、イヤなことに変わりない。
「すみません……」
謝りながらやんわりと胸を押し、抱擁を拒む。
「レイ?」
不思議そうに顔を覗かれたけど、ホントのことは話せない。バカバカしい、嫉妬なんてくだらないって、切り捨てられるのは分かってた。
「急に走り出すな、迷子になると言っただろう」
ガミガミと叱られて、「すみません」って頭を下げる。心配して怒ってくれてるのは分かってるし、確かにオレも悪かったと思ったから、反論はしなかった。
土地勘もないのに、いきなり路地を走り抜けるなんて無茶だったと思う。
ひったくられたのだって、ただの焼き菓子だ。「あーあ」って苦笑して諦めるくらいでよかったのかも。
「たまたま帯剣していたからよかったものの、5対1など無茶だ。自分の腕を過信するのもいい加減にしろ」
「はい」
神妙にうなずくと、旦那様は大きな大きなため息をついて、またぎゅっと抱き締めてくれた。
「ケガがなくてよかった」
ぼそりと囁かれて、ホントに心配かけたんだなと悟る。
けど、申し訳ないって気分になる前に、ツンと鼻につく移り香が不快で、顔がこわばった。
これだけニオイが移るってことは、ぎゅうっと抱き付かれたりしたのかな?
左右の腕で違うニオイする。まさか旦那様に限って、抱き締め返したりはしてないと思いたいけど、鳥肌が立つのは止められない。
「は……反省してます」
イヤなニオイに包まれたくなくて、身じろいで顔を逸らす。
胸の中が嫉妬に染まって、落ち着かなくて苦しい。
旦那様のこと、大好きだから余計にしんどい。
彼の妻って座を誰かに譲るつもりなんかないけど、今はその腕に甘えられない。
「……どうした?」
探るように訊かれたけど、正直に答えることはできなくて。旦那様が不機嫌になってくのに気付いても、どうしようもなかった。
その後は、事情聴取とか諸々のために、騎士団本部に連れて行かれた。
2人で選んだ焼き菓子持ってご挨拶に向かうつもりだったのに、お土産が人さらい5人組に変わっちゃうなんて、思ってもみなかった。
「さすがはアルトの奥方だな」
って、ここでも言われて、ふふっと笑う。
女の人たちに囲まれる姿を見る以前なら、素直に喜べたと思うのに、今は微妙だ。
最近、王都では似たような事件が多いんだって話も聞いた。さらわれた子供は、娼館に売られたり無賃で重労働やらされたり、色々とひどい目に合うみたい。
王都では孤児も多いんだって聞いた。
農業とか漁業とか林業とか、第一次産業に就く人がいないから、景気の上下が庶民の暮らしを直撃するんだって。
この辺のことは、うちみたいな山沿いの田舎では考えられない。人手不足で、領内の見回りだってこなせないくらいなのに、王都では職にあぶれた人がいっぱいいるって。
そういう人たちが廃墟に住みついちゃうの、行政側も分かってるけど、せっかく雨風をしのげてるのに、税金使ってまで奪うことはないんじゃないか……みたいな意見もあって、どうにも対処できないみたい。
山賊のねぐらになる訳じゃないなら、危機感が薄くても仕方ないのかな?
オレが助けた子供たちも、孤児ばっかの集まりだったみたいだ。
ひったくりの常習犯っぽかったけど、小っちゃい仲間を食べさせるためだったようだし、重い罪にはならなくて済んだ。
当面は騎士団の方々が面倒をみて、良さそうな孤児院に預けてくれるらしいけど、1ヶ所に全員はムリみたいで、ちょっとだけ心配だ。
帰り際に顔を見せると、さっきの子供たちがわあっと寄ってきて囲まれた。
「お兄ちゃん、帰っちゃうの?」
「お兄ちゃん、ありがとう」
「すっごく強かったね」
「格好良かったよ」
口々に言われて、「ありがと」と頭を撫でる。一通り全員撫で終えると、一番年長の少年が、「すんませんっした」って謝ってくれた。
「あれ、大事なモノだったんでしょ?」
済まなそうに言われて、首を振る。
「キミたちの安全の方が大事だ」
キッパリと告げて、彼の頭もわしゃわしゃ撫でると、細い腕でぎゅーっと抱き付かれた。
小柄だと思ってたけど、案外大きい。オレと15cmくらいしか身長の変わらない、やせっぽちの少年。学校で教える生徒たちよりも少し年上で、さすがに抱き付かれると恥ずかしい。
ぽんぽんと頭を軽く撫で、やんわりと押し退けようとすると――。
「小僧、いつまで抱き付いてる!」
旦那様が不機嫌を隠さないまま、オレと少年とを引き離した。
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