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「高校を2年留年して学費のためのバイトして、貯めた貯金と国公立の奨学金貰った俺は大学進学が決まってました。家に、いや妹のために、自分のせいで負担かけたくなかった」
———しかし、仕事と家の金銭問題の重圧に耐え切れなくなりノイローゼになって家族を殺害及び、放火。
遺体の激しい損傷から確固たる殺意、そして法廷において「殺せて満足だ」という発言。
3人の死体は炭化するほどに燃え尽き、辛うじて見つかった下顎の一部と状況証拠から、3人の身元が特定された。
彼の一貫した反省を見せない態度は世論の反感を買い、検察側も未成年の妹と父親、そして父の内縁関係にあった女性の3人を殺めたという事実、反省の見られない態度と相まり非道人的な犯罪だとして、極刑を求刑。
第一審によって、彼は21歳という若さで死刑囚となった。
一通り世間が知る、彼の経歴を振り返った彼。
「———世間ではそうなっています」
そう言って、『本当の秘密の話』を始めた。
「何?」
「———妹は、父とあの女に殺されたんですよ」
ぐらりと頭の中が回って、吐き気がした。
理解しようと、懸命に咀嚼しようとするたびに、込み上げるのは胃液だけだった。
そのような記述も証言は一つもない。
彼は第一審で、死刑になったのだ。
事実と違えば控訴するはずだ。
彼は、嘘を言っているのか?
俺を揶揄っているのか?
「———妹は、父との子妊娠していました。高校生になったばかりの子が。…あいつは、朱莉は俺の前でずっと笑っていたのに、俺の邪魔をしたらいけない、そんなことばかり考えていたんだと思います…」
仮面のような無表情が剥がれて、本物の『彼』が顔を出す。
悲壮な顔だった。
そして同時にその奥に潜んでいるのは、今まで何回も見てきた、人殺しの顔。
———誰かが憎くて憎くて堪らない、という顔。
間違ってる。とそう思った。
この青年がそんな顔することは、間違ってると。
「それなら、お前は……何故っ!」
思わず体が椅子から浮いた。
今の話が本当に事実だったのなら、情状酌量の余地もあったはずだ。
そもそも、殺人者の皮を被り世間を敵に回す必要なんてなかった筈なのに。
「…俺は、妹を二度殺してまで生きていたくなかった」
「…、」
「きっと俺は許されたかもしれません。許されなくても今ここにいることは無かった。でも、実の父親の子供を身籠りながら、堕ろすことも出来ずに絶望の中で殺された妹の人生を世間に晒して生きるくらいなら、俺は此処に居る方が幸せです」
何も知らない『無害な』奴らが、妹を何度も何度も殺すのだと。
———彼はそう言った。
「くだらないだろ…でも…俺は朱莉を守ってやれなかった…。父が朱莉の死体の前で言っていたんですよ。お前も女に生まれてくれば、少しは使い道があった。朱莉ですら『処理』出来る。妊娠したのは想定外で、役に立たないところが兄妹で似てるって。———その時俺、思ったんだ。俺はこの男を殺すために今ここにいる、この為に生まれてきたんだって、それが俺の存在意義だって…。結局、朱莉は “兄に殺された可哀想な人” になってしまったけれど、妹を辱めだ挙句殺したあの男を、俺はあいつを———殺せて、満足だった」
砕けていく口調に荒んでいく目と、詳細に語られる現場の景色。
もう止めてくれと、叫び出しそうだった。
でもそんなこと言えるものか。
この告白を聞かずして、俺は2047番を送れない。
それは規則だからでは無い。
今、目の前にいる一人の青年が『人間』であるからだ。
「あの男は生きている内にゆっくりと殺しました。この男の血が半分自分の中に流れていると思って、背筋が凍る思いでしたよ。美友さん…、あの女も駄目でした。真実を知っている一人でしたから。全てを知っていて尚、止める事すらしなかった。朱莉に暴力した挙句、父と共謀してあいつを殺したんだ。あいつらは人の皮を被った化け物だった」
憎悪、焦燥、そして途轍もない後悔。
今まで一度も見たことがない彼の表情に、この告白を嘘だと疑う事など出来なかった。
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