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無意識の内に返事をした相楽を、彼は待っていた。
座ったまま、申し訳なさげに両手を少しだけ前に出して。
椅子から立ち上がった俺は、そんな彼を抱き締めた。
強く、強く。
そんなことしか出来なかった。
互いの温度が溶け合うよりも短い、時間。
静かなその一瞬が、少しでも彼を救ってくれれば。
肩口で、彼は消えそうに呟く。
「……もっと朱莉を、抱き締めてあげれば良かった」
その言葉に俺の涙腺も緩んだ自覚があった。
「今度こそ、時間だ」
「———はい」
返事をして、立ち上がった彼はもう仮面を付けてはいなかった。
家族殺害、放火、ノイローゼ、可哀想な子。
一人の少女のために、彼はその仮面を喜んで被ったのだ。
動いた歯車が悲しいくらいに噛み合ってしまった、その上に乗っていたのが彼だった。
もう、覆せはしない。
彼も望んでいない。
国は、法は、世間は。
彼が罪人だと判断をした。
その罪は命で償うべきだと。
仏壇に深く礼する姿を横目に相楽は真実を知ってなお、何もできない自分の不甲斐無さに悔しさと憤りを感じるも、それをなんとか腹の底に沈めていた。
相楽にはそうすることしかできなかった。
彼の背負う十字架の重さは、代わってやれるほど軽いものでは無い。
俺の心などいとも簡単に潰してしまうのだろう。
——————……。
真新しい、綺麗な扉を開ける。
ほんの少しだけ線香が薄くなった。
「やっと、会いに行ける」
そう呟いた彼の体温を、
俺は一生忘れないだろう。
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