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今まで何回もこの光景を見てきた。
口を開けた赤い四角。
上から下へと張り切った縄。
慣れた仕事だ。
心を置き去りにしたままでも、急速に頭の中が冷静に状況を処理していく。
動揺するのは一瞬で、冷徹な死神に戻ることは容易だった。
生から死へ。
次の仕事へと。
そのはずだった。
でもなぜだろう。
指先から温度が消えていく。目の前で全身痙攣を起こす “彼” のように。
“ 我々の仕事は冤罪などないという前提で進んでいる。だから迷うな ”
と教官が仰っていたのが脳内に反響する。
———教官、これでも我々は迷ってはいけませんか?
我々はまだ躊躇いもなく、罪人を殺していかなければいけませんか?
自分はまだ人間に戻ることが出来るでしょうか。
少しずつ痙攣が収まっていく。
「ぁ……、っ…、」
無意識に、涙が頬を伝った。
ずっと、長い間。
2047番の姿を見ていた。
彼を殺したのはボタンを押した3人ではない。
吊り下がる彼の本当の “死のボタン” を押したのは、俺だ。
医師や検察が集まり出したことからもう30分以上、立ち尽くしていたのだろう。
同僚に呼ばれ我に返り、下に降りる。
目の前で横たわる彼の死が、はっきりと見て取れた。
そっと彼の手に触れる。
あぁ———冷たい。
触れた指先は、もう命を感じさせなかった。
最後に教誨師の念仏の中で2047番の死亡が確認され、彼の身体は扉の奥に消えていった。
彼は———穏やかな顔で笑っていた心優しい青年は、死んだのだ。
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