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好きだよ。と言った。
断られる未来なんか星くずの数ほどあって、それでもそのなかから輝いている一欠片におもいをたくした。
「~~~~~~~~~っ‼
ぼくっ、も……す、すき、です!!」
知っていた、などと。
どの口がほざくのか。
未来は不確定で、この結果に収まるなんて思っていなかったのだ。失敗して倒れこんでもいいように、決行の場は障害物のないところにしておいたのに。
「……好きです。迅さん」
ああ、これは夢に違いない。
真っ赤に染まった頬も、遠くに聞こえる本部の連中のざわめきも、誰もいない廊下に響く息さえ。夢に違いないのだ。
「好きです。」
おれの反応が気にくわなかったのか、もう一度つまびらかにされた。真摯な目線。しんとした床を僅かにさらす風が足下を冷まして、これが現実であることをじわじわと確かめさせてくる。
「…あ、りがとう。おれの思いに、応えて、くれて。」
彼は、こんなおれの想いに、こんなにもまっすぐと同じ質量を返してくれるのだ。不確定で不鮮明で不安だった未来に、一筋の光が指した。
断片的な未来が、崩れてゆく。
ぐずるようにゆっくりと、はらはら舞うように、あるいは、大きな音をたて、木端微塵に。
未来の分岐点は、今いろんなところで途切れようとしていた。
そのきっかけは、おれと、メガネくん……修くんの繋がりが出来たこと。付き合うことになった、修くんの心がおれのものになった、ということ。
とある近界の国、やっと辿り着いたそのときに、白い近界の少年と修とが感動の抱擁を交わす、輝く未来がなくなった。
強さを求め続ける青年が、戦術を盾に戦う修に並々ならぬ興味を抱き、彼を追いかけ回すようになるおもしろげな未来がなくなった。
二人目の指導者たる射手が、弟子へ奇妙な愛着を向ける、ラブコメチックな未来がなくなった。
彼をヒーローと称する子供心なおとなから、華やかな花束を贈られる、洒落た未来が、なくなった。
弟と妹を救った恩人が、そのまま『顔役』自身の恩人となる、晴れ晴れしい未来がなくなった。
生まれながらの強さとそれを磨きあげる為の才能に固執する男に、心の芯の強さを見せ、男がそこに消えた元部下のまぼろしを見る、報われる未来が、なくなった。
病弱な少女とその仲間たちからアプローチをされる姦しくも楽しい未来がなくなった。
修が唯一無二の師匠に、ささやかなおでこへのキスをされる、くすぐったい未来がなくなった。
近界にて、かつて修を痛め付けた女性を、今にも命を落としかねないその女性を捕虜として捕らえ、結果的に救う信じられないような未来が、なくなった。
少女の兄との再会、そのあと毎日、彼らの私室で思い出話がされる、暖かな未来がなくなった。
姉を喪った子の命より大切な姉の面影を、その優しい表情に見出だされることを拒まずに、知らず独りの少年の拠り所となる、哀調と慈みを帯びた未来が、なくなった。
彼は無限の可能性を持っていたのだと。今気づいてももう遅いのだ。だってもう、彼が起こすはずだった奇跡は大なり小なり、消えていっている。
一つ一つはささやかで、でもかけがえなくうつくしい未来。それらの起きる可能性は眠るように、死んでいっているんだ。
付き合ってくれる?とは陳腐なことばだ。そして俺にとっては重い。もちろん、ときみは言う。当然のように、これがあるべき姿、未来だったかのように。
「そう言ってくれると思った。」
………………やっぱりおれ、きみのことが、好きだ。好きなんだ。
だから、
きみが町中で助けた少女に恋をされ、その子と付き合うことになる、未来が、なくなった、のも、女性となった元少女との娘を、母の腕に抱かせる、未来がなくなったのも、
きみがいずれ俺のために誰かの愛を拒むのも、
そのからだをおれのために壊そうとするのも、
ぜんぶ、ぜんぶ、謝る言葉は口にしないよ。ただ心の中でくらい懺悔をさせてくれたっていいだろう。
ごめん。ごめんね。
こんな未来を選ばせた。
きっともっと他に幸せになれる未来は山ほどあった。過程はともあれ最終的には穏やかな楽園が待っていたのに。
「…迅さん?」
優しく俺を覗き込む。
癖のある黒髪を撫でる。廊下の向こう側から聞こえるざわめきは既に小さく収まっていた。
こんなにきれいな純粋を、向けられる資格なんてないのになぁ。
このちいさな神さまは、絶望も悲哀も落胆も停滞もすべて最初から二番目までの素晴らしい未来へ連れていってしまう。
おれがその権利を奪った。ただ自分のものにしたかったから。
「許して。ぜんぶ、きっちり責任とるから」
きょとんとした、どこか猜疑的なような瞳が俺を指す。どういうことですか?って思ってるんだろうね。でもきみは知らなくていい。
きみの身に降りかかる絶望も、きみの仲間に贈られる悲哀も、きみのまもりたいひとの落胆も、ぜんぶ。俺の得意な暗躍とやらで、掬ってみせよう。
きみが悲しまずにすむように。
だから、きみはどうか、おれをえらんだ責任をとってくれ。どこから出てくるのかもしれない全能のちからを棄てて、選んだ責任をとって。
大丈夫。ただ近くにいてくれるだけでいい。おれがそれを望んだんだから。
だから、そう。ねぇ、
「おれの、かみさま。」
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