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仄明かり~追想~①
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朝のホームルームが始まるチャイムの音が、長い廊下に反響した。
教室の並ぶ学生棟の白い一直線の廊下を、由貴が走り抜ける。
遅刻ギリギリだ。
チャイムが鳴り終わる寸前の所で、教室に飛び込む。
教室ではクラスメイト達が、楽しく談笑していた。
昨日見たテレビやタレントの話し、ゲームや漫画の話で盛り上がっている。
クラスメイト達の横を通り抜け、由貴は自分の席につくとぐったりと机に突っ伏した。
(疲れたぁ………)
遅刻ギリギリで廊下を全力疾走したものだから、自分の席につく頃にはもう体力など残ってはいない。
机に突っ伏したまま、上がった息を整えていると、親友の雨音光希が由貴の前の椅子を引いて向き合うように座り、声をかけてきた。
「おはよ、由貴(よしたか)。今朝も遅刻ギリギリだったな」
にやにや笑いながら、机に突っ伏している由貴の髪を撫でる。
『うっさいな』
「だからいつも一本前の電車に乗れって、言ってんだろ。そうすりゃあ遅刻しないで済むだろ」
『遅刻ギリギリなだけで、遅刻はしてないよ。……それに、一本前の電車にだけは乗りたくないんだよ』
「なんで乗りたくねぇんだよ?」
一本前の電車には絶対に乗りたくない理由がある。
それは「痴漢」だ。
痴漢は元来、女の子を狙うことが多い。
だから、男の僕が痴漢なんて遭う訳がないと思っていた。
乗る車両を変えたりしたが、効果はなく執拗に僕を狙ってくる。
仕方がなく、僕は遅刻ギリギリになってしまうが一本後の電車に乗るようにしているのだ。
男なのに痴漢に遭うなんて、恥ずかしくて言えやしない。
特に光希にだけは知られたくない。
髪を撫でながら聞き返してくる光希の手を、由貴は振り払った。
『僕のことはいいだろ。そんなことより、何か良いことでもあった?』
「解るか?」
『そりゃあな。声を聞けば解るよ』
光希に片想いをしているからこそ、微妙な変化に気づくことが出来る。
自分に声をかけてきた時、その声が弾んでいて嬉しそうだったから、何か良いことがあったんだなと解ったのだ。
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