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⑤
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『僕が家を出る前だったからいいものの、家を出た後だったらどうするつもりだったの?』
「まぁ、その時は取りに戻ったさ」
『取りに戻ったって、学会に遅れたらどうするつもりだよ』
「もう済んだことだし、そんなに責めるなって」
まったく、と由貴は小さく肩を竦める。
「さて、電車の時間まで時間があることだし、カフェにでも入って茶でもするか」
『それって兄さんの奢り?』
「大切な書類を届けてくれたしな」
『やった!』
手を叩かんばかりに喜び、由貴は尚哉の腕に飛びつく。
『ねぇ、兄さん。アリッサムって言うカフェで今、イチゴフェアをやってるんだ。そこで僕、イチゴパフェが食べたいんだけど』
「仕方がないな。そのアリッサムって所にするか」
尚哉の腕に自身の腕を絡ませ、尚哉の歩幅に合わせながら、カフェ「アリッサム」へと歩き出した。
『やった!そのカフェ、店構えが可愛くて男一人じゃ入りづらいんだよね』
「由貴は女の子みたいに可愛いんだから、そんなに気にすることはないんじゃないか?」
『なにその言い方。それじゃあまるで僕が、そのカフェに入っても違和感がないって、言ってるみたいじゃないか』
「まぁ、そのままでも充分女の子に見えるからな、由貴は」
『どこが!?』
ズボンを履いてるし、胸もない、女の子特有の柔らかさもない、どこから見ても僕は男だ!
確かに女の子に間違われて告白されたり、ナンパされたり、痴漢にあったり……、だが僕は男だ!
大通りを抜け、脇道に入ると由貴が言ったように可愛いらしい店構えのカフェが見えた。
確かに男では入りづらい店構えだ。
『ここのイチゴパフェが食べたかったんだ。ほら、入ろう兄さん』
「あ、ああ」
入るのを躊躇する尚哉の腕を引っ張り、由貴は店内に足を踏み入れた。
カラン、とドアベルが鳴り響き「いらっしゃいませ」と言う、柔らかい声音に出迎えられる。
店内は童話をイメージした内装になっており、店内のほとんどが女性で埋まっていた。
そんな中に男が二人だけかよ、と尚哉は身の置き場がないような気持ちになる。
窓際のテーブル席に通され、由貴はお目当てのイチゴパフェ、尚哉はコーヒーを頼んだ。
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