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「冗談だ冗談。本当、由貴はからかいがあるな」
『なっ、冗談!?冗談なんて言ってる場合じゃないだろ。電車に乗り遅れても知らないからな』
ぶつぶつ文句を言いながら、由貴は尚哉の背中をぐいぐい押し、改札口へと追いやる。
「おい、押すなって。危ないだろ」
『気を付けて行ってきてね、兄さん』
「ああ」
じゃあな、と手を振り尚哉が改札口を通り、駅構内へと消えていく。
尚哉の姿が見えなくなるまで見送ると、由貴も改札口を通りホームへと向かったのだった。
******
遅刻ギリギリで教室に飛び込むと、光希が眉間に皺を寄せ不機嫌な顔をして歩み寄ってきた。
「由貴、おはよう」
随分と怖い顔をしている。
何か彼を怒らせるようなことをしただろうか……。
もしかして昨日の試写会を断ったことを、未だに根に持っているとか……?
「話がある」
『話って?』
「ここじゃあ話にくいことだから、屋上に行かないか」
『別にいいけど』
踵を返し、先に立って歩き出した光希のその背中を追う。
教室から廊下に出て屋上へ向かう中、由貴と光希の間には一言も会話がなく、沈黙に耐えきれず由貴が光希に声をかけたが、それに対して光希が応えることは一度もなかった。
何に対して光希が怒ってるのか、考えても由貴には検討もつかない。
光希はこちらを振り返ることもなく、ひたすら無言のまま屋上に続く階段を上がっていく。
屋上の扉を開けると、穏やかな春の風が吹き抜け、空は雲一つなく冴え渡っている。
由貴の背後でバタンと大きな音を立て閉まり、光希が唐突に振り返った。
光希はにこりともせず、由貴を真っ直ぐに見据えている。
『で、話ってなに?』
いつまでも黙ったままの光希に焦れて促した。
「昨日、駅前で一緒にいた男って誰?」
『もしかして見てたのか?』
「ああ。随分と仲良さそうにしてたみたいだけど」
突然、光希に肩を掴まれ力任せに、ドンっと扉に背中を押し付けられた。
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