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第二章 秘密(3)
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以来、桐谷さんの指名で、俺は桐谷さんの練習パートナーを組むことが多くなり、一緒に過ごす時間が増えるにしたがって、本人からも周りからも、徐々に桐谷さんという人を知るようになった。
テニスは高等部で全くの初心者から始めたわけではなく、小学生のころに習っていたことがあり、多少の心得があったらしい。
本人曰く、ひとつのことに集中できない性格なので、中等部では、それまで経験のなかったバレーボールや陸上競技に挑戦したが、それらにも飽きたので、久しぶりにテニスに戻ってきたとのこと。ちなみに、一番適性があると自負しているのは幼いころからやっていたゴルフだが、明頌にはゴルフ部がないので仕方がないとのことだった。
実家は都内中心部の高級住宅地にあり、桐谷さんが幼少時に父親と離婚した母親が今はひとりで住んでいるらしい。
もともと小学校から良家の子女が集まる有名私立大学付属校に通っていたが、小学校高学年になるころには、学校の友人やその家族らの等質性にうんざりし、また、母親との間の、価値観の違いから生まれた確執が顕著になってきたので、母の反対を押し切って、全寮制で実家を出ざるをえない我が校に中等部から入学したという。
雰囲気から俺が推察した通り、学業成績も学年でトップクラスらしいが、あくせく勉強している様子は全く見えず、明頌では、第一にして、ときに、唯一の関心事にさえなりがちな、成績だとか大学受験だとかの話を、俺といるとき、桐谷さんが持ち出すことは一切なかった。
そして何より、桐谷さんと一緒にいて一番驚いたのは、校内に、桐谷さんの”ファン”がずいぶん多いことだった。
何事にもスマートでかっこいいからな、と最初は俺も納得していたのだが、徐々に、何か違う、と感じ始めた。
食堂や講堂で偶然会ったり、あとはただ、ふと廊下などですれ違った際に、嶋田、と名を呼ばれて、手を振られたり手招きされたりするとき、そんなことは他の知り合いでもいくらでもあることなのに、相手が桐谷さんのときにだけ、周囲の、羨望と嫉妬の混じった視線が、ぐっと自分に集まるのを感じるのだ。
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